小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1990 雲海のような絶景 朝霧の散歩道

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 今朝の散歩途中、「雲海」のような現象が目の前に広がっていた。正しくは雲海ではない。散歩コースの調整池から発した霧が周辺を覆い、高原に見られる雲海と似た風景を演出したのだ。コロナ禍で気持ちが沈む私たちに自然が贈ってくれた美しい風景は、気温の上昇とともに1時間ほどで消失した。

 雲海は、高い山や飛行機から眼下を見おろした時に、海のような一面に広がって見える雲のことで、日本では兵庫県竹田城跡から見える雲海がよく知られている。私が住む周辺は海抜25メートル前後であり、もちろん高原ではない。ただ、近所にある調整池は霧がしばしば発生し、周辺を覆い尽くす。昨夜は低気圧が通過したためか一時雨が降り、今朝は急に冷え込んだ。放射冷却現象の結果、霧が発生し、開花したソメイヨシノも驚くような雲海と似た幻想風景を描き出したのだろう。  

  冒頭の写真は、開花した桜の先に霧が立ち込め、その背景に木々が芽吹いた森と小学校の赤いとんがり屋根が見える。写真の右側はJRの駅前ビル群だ。昨日に続き、歳時記を開いてみる。雲海は夏の季語で「白雲・彩雲が下界を覆い、峻厳な峰がその中に屹立するさまは、厳かで美しい。飛行機雲から見た雲海は季語としては扱わない」(角川学芸出版『俳句歳時記』)とある。

「峻厳な峰」という言葉で、かつて訪れたペルーのマチュピチュを思い出した。インカの遺構の後ろにマチュピチュの最高峰・ワイナピチュ(2720メートル)がそびえ、雲海が広がっていた。この時、すぐ近くを美しい蝶が飛んでいた。蝶の名前は知らなかった。同行した蝶に詳しい知人によると、ナンベイホソチョウの仲間のである「Actinote nega か Actinote monina」という名前らしく、珍しい蝶だと分かった。今、マチュピチュはコロナの感染拡大で観光客の出入りをストップしているから静寂を保ち、あの蝶ものんびり遺構の上を舞っているに違いない。  

 調整池の遊歩道。普段なら行き交う散歩の人が少なくない。しかし、冷え込んだ今朝は、人影も少ない。そんな中、霧の向こうの森からは鶯と雉の鳴き声が交互に響いてくる。春は浅いとはいえ、自然界は躍動の季節へと向かっていることに気づかされる。

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    写真 マチュピチュの蝶の写真は齋藤寛康さん撮影。

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