1220 南米の旅―ハチドリ紀行(9) 自然の宝庫・蝶の話
この南米の旅のブログ、5回目「天空の城を蝶が飛ぶ」で、マチュピチュに現れた蝶を同行者が撮影した話を紹介した。その中では「蝶に詳しいガイドと同行者の一人に聞いても、この蝶の種類は分からなかった」と書いたが、その後、その同行者からこの蝶に関して「マルバネキオビアゲハ」というアゲハ蝶の種類と推定されるという連絡が届いた。海外では郵便切手にも採用されるほど美しい蝶であり、あらためてマチュピチュを飛ぶこの蝶の写真に見入った。
この情報を寄せてくれた同行者の山田隆さんは、蝶の収集が趣味で今回の旅でも蝶を見つけると、カメラのレンズを向けていた。山田さんは、齋藤寛康さんが撮影した蝶の写真について、自身が持つ図鑑で照合し、蝶に詳しい知人にも相談した結果、和名が「マルバネキオビアゲハ」と呼ばれる蝶の可能性が高いと判断したという。
この蝶はメキシコからブラジルまで分布するという。エクアドルでは1961年に初めて発行された郵便切手にこの蝶を含む4種類の蝶のデザインが採用されており、南米を代表する蝶の一種と言ってもいいようだ。山田さんはこの蝶について「オスは羽がクリーム色をしており、メスの日焼けした古い個体が光線の加減で写真のような色に写ったのではないか」と推定している。
マチュピツを含め南米は蝶が多く、アルゼンチンのイグアスの滝へ向かう遊歩道でも羽に数字の8のような模様が入った「ウラモジタテハ」という蝶なども観察できた。マチュピチュでは羽が青色に光り、世界でも最も美しい部類に入るという「モルフォチョウ」も見かけた。そのほか写真のようにいろいろな動物を見かけ、南米が自然の宝庫であることを実感する旅でもあった。
山田さんは、マチュピチュを下りてから列車の駅に向かうバスから低空飛行しているモルフォチョウを見たと言い、「藤色に光り幻想的だった」という印象を持ったそうだ。帰国後、自宅の標本箱にあるこの蝶を観察したが、傾けて様々な角度から見ると銀、ピンク、ブルーと変幻自在の色になるという。そして「普通の蝶の鱗粉による光沢ではなく、光の屈折による光沢(構造色)のため、多少指で触れても手に鱗粉が付かず、経年による色褪せもないのです」と、特徴を解説している。
山田さんによると、この蝶の発色の原理である積層構造は日本のメーカーの技術陣も注目し、大手繊維メーカーの帝人が「発色する繊維」を、日産自動車がスカイラインのメタリック塗装で新しい技術を開発している。南米の自然が生み出した奇跡とも思える発色の原理が、現代の生活文化の向上に寄与しているのである。蝶の話は奥が深い。
その後、山田さんから冒頭の蝶について「友人と画像を拡大して詳しく調べた結果、アゲハ蝶の仲間ではなく、別の蝶でないかと推定した」と連絡があった。山田さんによると、アゲハチョウの仲間の特徴と思われた「尾のようなもの=専門的には尾状突起」の部分は右の前翅と後翅の部分が細長く黒で写り込んでしまったため、当初はアゲハの仲間と考えた。しかし、斑紋と産地を考えるとナンベイホソチョウの仲間のである「Actinote nega か Actinote monina」だと推定できるという。この蝶の仲間には絶滅危惧種に指定されているものもあるそうだ。
蝶の話の5回目のブログはここから→南米の旅―ハチドリ紀行(5) 天空の城を蝶が飛ぶ
写真
1、珍しい蝶がいるマチュピチュ
2、エクアドルの切手になったマルバネキオビアゲハ
3、モルフォチョウ
4、8の字に見えるウラモジタテハ
5-11、アルゼンチンのイグアスで見かけた蝶や動物たち