小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1216 南米の旅―ハチドリ紀行(5) 天空の城を蝶が飛ぶ

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 標高2280メートルの高地にあるペルーのマチュピチュ。数多い世界遺産の中でもひときわ人気が高い謎の遺構である。NHKの旅番組のアンケートで「行ってみたい世界遺産」のトップに選ばれたマチュピチュだが、古都・クスコを経てこの遺構に行ってみて、その理由が分かったような気がした。

 ガイドによると、遠い日本からことしは6万8000人(数年前は2、3万人)の日本人観光客がやってくると予想されているそうだ。 雨季の晴れ間、さわやかな日和というよりも日差しがややきつい中、山を歩く私たちの近くを蝶が舞っていた。この連載の1回目にも書いたが、蝶の姿からは「この遺構の謎をよく考えてください」と問いかけているような、不思議な力を感じた。

 マチュピチュへの入り方はいろいろある。私たちはパラグアイアスンシオンからリマ、リマからクスコへと飛行機を乗り継ぎ、古都クスコに入った。クスコはかつてのインカ帝国の首都で、標高3360メートルの高地だ。ここからさらにホテルのあるウルバンバにバスで移動し、翌日のマチュピチュ行きに備えた。 「高地だから、アルコールはやめた方がいい」と注意されたにもかかわらず、私はその禁を破ってしまい、息苦しくてなかなか寝付かれず、長旅の疲れは取れない。

 翌朝早くオリャンタイタンボの駅からインカレールの列車(もう1つ、ペルーレールという鉄道会社の列車もペルー国鉄が敷設した同じレールを走っている)に乗り、マチュピチュに向かった。水量が豊かな川沿いを列車は約1時間半、マチュピチュへの起点となるアグアスカリエンテ駅(標高2000メートル)までゆったりと進んでいく。

 車窓からはペルーの田園風景や氷河を抱いたアンデスの高峰が見え、たまっていた疲れも次第に消えていった。同行者の中には東京の私鉄の女性運転士さんや熱狂的鉄道ファンだという大学の先生もおり、この列車の旅を楽しんでいるように見えた。

 終点から専用バスに乗って九十九折りの山道を登りさらに20分、ようやくマチュピチュの入り口に到着。山道をゆっくりと登り始めると、しばらくして「空中都市」の遺跡全体を見渡す「見張り小屋」に到達した。テレビや新聞、雑誌で何度もこの空中都市の映像、写真は見ている。しかし目の前に広がる光景は新鮮に映った。だれもが「きてよかった」と思ったに違いない。

 その証拠に、どの顔も満足そうに輝いている。 マチュピチュの最高峰・ワイナピチュ(2720メートル)を背景に切り立った絶壁の中に建つ様々な遺構を見ている途中、蝶が飛んできた。このブログで既に紹介した同行者の一人、齋藤寛康さんは持参したコンパクトカメラで、蝶の後方に遺構が写っている写真をものにした。後方の遺構にピントが合っていて蝶は少しぼやけているが、素晴らしい一枚だ。蝶に詳しいガイドと同行者の一人に聞いても、この蝶の種類は分からなかった。

 このような辺境の高地になぜマチュピチュは存在したのだろう。1911年7月24日、米国の当時33歳だった歴史学者、ビンガムが発見したというマチュピチュの遺跡。今日まで様々な説が語り継がれている。 15世紀のインカ帝国の砦としての役割説、太陽を基にした暦を見る特別な宗教施設説、段々畑を利用した農業施設説などのほか、最近ではクスコとアンデスを結ぶ物流交易の中継拠点説も出ている。

 たまたま見たTBSテレビ(BS放送)のマチュピチュ特集では、ペルー国立マチュピチュ考古学公園局長のフェルナンデス・アステテさんが「マチュピチュはクスコとアマゾンの中間にあり、金や銀、コカなど物流の中継拠点だったとみていい。儀式の岩の周囲には遠い地域から運ばれた多数の石が見つかっている」と話していた。このように、この遺跡・遺構の存在理由についていろいろ言われてきた。しかし、いずれにしても真相は謎のままであり、ベールに包まれているからこそマチュピチュは世界中から多くの人を呼ぶのだろう。

 それでも世界遺産の前でヌードになって撮影するような不心得者は、お断りに違いない。私たちが訪れた翌日、オーストラリアとカナダの4人の20歳代前半の男性が、ヌード写真を撮影して、ペルー当局に身柄を拘束されたというニュースが流れ、せっかくの思い出を台無しにするような話に耳を疑った。(飲食店などで裸になって撮影し、インターネットに投稿する事件が相次いだ日本の現象と共通しているようだ)

 齋藤寛康さんのホームページはこちらから

 天空の城悠然と蝶ひらり

 6回目はコチラから

 写真 1、斎藤寛康さん撮影の蝶とマチュピチュ 2、混雑する登山道入り口付近 3、これがマチュピチュだ 4、農業用の段々畑 5、アンデスウサギと呼ばれるビスカッチャも見かけた 6、遺跡に住み着いたリャマ 7、車窓からの風景 8、マチュピチュの起点・アグアスカリエンテ駅の光景

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