小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1972 甲子園大会ヒーローの光と影 最高年俸投手と刑事事件被告の内野手

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 今朝配達された新聞には、大リーグのヤンキースからフリーエージェント(FA)になった田中将大投手(32)がプロ野球パリーグ楽天との契約に合意したことが大きな扱いで載っている。年俸もプロ野球史上最高だという。一方、同じ新聞の地方版には、夏の甲子園大会で優勝したチームの主将だった元高校球児の強盗致傷事件の裁判記事が出ている。スポーツと人生の光と影を象徴しているような2つの記事。野球少年たちはどう受け止めるだろう。    

 田中はここで書くまでもなく、北海道の駒大苫小牧高校時代、夏の甲子園大会で2年連続エースとして投げ、2年生の時(2005年)は優勝(同校は連覇)、3年生時は決勝で早稲田実業斎藤佑樹(現日ハム)と投げ合い、準優勝。その後楽天を経てヤンキースで活躍し、大投手の仲間入りを果たした。報道によると、楽天とは2年契約で年俸は9億円プラス出来高払い、という夢のような待遇だ。田中の復帰は、楽天が拠点とする仙台のファンには、コロナ禍を吹き飛ばす光の春をもたらすニュースといっていいのかもしれない。  

 同じ新聞の頁をめくり、地元のニュースが扱われている県版を開いたら「甲子園V主将なぜ事件に」という見出しが目に付いた。この記事を要約すると――。千葉県八街市で2019年4月、強盗目的で住宅に侵入し夫妻に重軽傷を負わせた強盗致傷事件の被告の一人、千丸剛被告(21)の論告求刑公判が28日千葉地裁であり、検察側は懲役6年を求刑、弁護側は再犯の可能性は低いとして執行猶予付きの判決を求めた。判決は2月4日。千丸被告は埼玉の花咲徳栄(はなさきとくはる)高が2017年夏の甲子園大会で優勝した時の主将(二塁手)で、共犯の20代の男3人とともに犯行に及んだとされ、3人は懲役7~11年が求刑されている。  

 千丸被告は花咲徳栄高からスポーツ推薦で2018年駒沢大学に進学、1年生の春からリーグ戦に出場し、大学野球でも活躍が期待されていた。しかし、入部直後からコンクリートの上で正座、たばこの火の根性焼き(火のついたたばこを皮膚に押し当てること)といった先輩たちによるしごきを受けため「チームの体質や風習についていけなくなった」として同年9月に退部、19年3月には「大学にいる意味がなくなった」として大学も中退した。その後は実家に引きこもっていたが、小中学校時代の級友から「人のいない家から金を運ぶ仕事がある」と誘われ、犯行に加わったという。公判では、花咲徳栄野球部の岩井隆監督も情状証人として出廷。「重い十字架を背負う千丸は何か支えがないといけない。それを私がやろうと思う」と証言したという。  

 先日は南海ホークスの黄金時代の名監督といわれた鶴岡一人氏(故人)の孫で、慶大野球部の選手(捕手)だった鶴岡嵩大(22)という慶大4年生の犯罪が報じられていた。鶴岡は、新型コロナ対策の持続化給付金をだまし取った詐欺容疑で島根県警松江署に逮捕されたのだ。

「若人のすなる遊びはさはにあれどベースボールに如く者はあらじ」(若者がやる遊びはたくさんある中で、ベースボール以上のものはない)。野球が大好きだった正岡子規の短歌の一つだ。病気で寝たきりになっても、野球を回想して愉快になったという子規。一時は野球に熱中したと思われる2人が犯罪に手を染めてしまったのを見たら、何とももったいない人生を歩んでいるなと思うかもしれない。  

 追記 千丸被告に対し、千葉地裁は2月4日、懲役5年の実刑判決を言い渡した。