1971 ラッセルの警告が現実に 人類に未来はあるか
「人類に未来があるか、あるいは破滅か。その解答の出ないまま私は死んでいく。ただ私の最後の言葉として遺したいのは、人類がこの地球に生き残りたいと思うならば、核兵器を全廃しなければならない」。イギリスの哲学者、バートランド・ラッセル(1872~1970)は、97歳でこの世を去る直前、このような言葉で核兵器全廃を訴えた。
ラッセルが亡くなって半世紀が過ぎた。核兵器禁止条約がようやく発効したとはいえ、依然、地球上には多くの核兵器が存在し、廃絶の道のりは険しく遠い。やや大げさかもしれないが、本当に人類に未来はあるのだろうかと思う。
ラッセルはこうも語っている。「人類が生き残ること――これがすべてに優先する。文明も繁栄も、自由主義も社会主義も、それは人類の生存が前提である」(日高一輝訳・ラッセル『人類に未来はあるか』理想社)。核戦争が起きれば、人類が生き残ること自体危うくなることに警鐘を鳴らしたのだ。だが、核兵器保有国は「核の抑止力」を前面に出し、核の廃絶に耳を傾けない。唯一の被爆国、日本もそれに同調し、条約を批准しようとする姿勢はない。
核の時代が続く中、人類は新型コロナウイルスに襲われている。ラッセルが健在ならは「それみたことか」と言うに違いない。コロナの感染者は世界で1億人を超え、217万人以上が亡くなっている現実。「人類に未来はあるのか」と悩み、「生き残ることはすべてに優先する時代なのか」と自問自答する人は少なくないのではないか。
そんな生きにくい2021年の日本と世界。フランスの外交官で詩人・劇作家ポール・クローデル(1868~1955。彫刻家カミーユ・クローデルの弟)の『断章』(末尾に掲載)という詩を読むと、冷えた心が少しだけ暖まるような思いになった。クローデルは駐日フランス大使時代、関東大震災に遭遇し、救助活動をした。配給を待つ被災者たちが整然と順番を待つ姿に感動したことを手記に残したことでも知られる。
またしても多くの暗い日のあとで
やさしい太陽が青い空に輝き出す
やがて冬が終わり やがてまた春が来る
そうして朝は朝の衣を着て進み出る
不吉な鳥の鳴き声と
すすり泣く北風の口笛のあとで
今私はつぐみの鳴くのをきく!
すずかけの幹の上でさきほど私は見た
穴からはい出して来る悠然たる裸虫を
すべては輝き あたたまり ひらきのびて
生一本のよろこびが 神々しさが
やがて来る夏の信念が
少しずつ生長し行き渡る!
かすかに私の頬をなでて吹く
まだ力弱いこの微風は
私は知っている これがフランスだ!
(堀口大學訳・新潮社『世界名作選』より)
写真 咲き始めた遊歩道の梅の花
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