小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1798 チャーチルとジョンソン 英国首相の未来

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 ウィンストン・チャーチルといえば、英国の元首相で20世紀を代表する政治家の1人といっていいだろう。政治家でありながら、1953年には「第二次大戦回顧録」を中心とする著作活動でノーベル文学賞を受賞している文人でもあった。欧州連合(EU)からの離脱問題で揺れている英国の新しい首相に離脱強硬派で「英国版トランプ」といわれるボリス・ジョンソンが就任した。若い時代、新聞記者だったというジョンソンは、チャーチルのような歴史に名を残す宰相になれるのだろうか。(敬称略)
 
 国内各紙の報道によると、ジョンソンは米国のニューヨークで生まれで、ロンドンにある中高一貫校の名門イートン校からオックスフォード大学に進み、卒業後高級紙(英国は高級紙という日本の朝日、読売、毎日のような一般紙と、タブロイド判の大衆紙に区別されている)タイムズに入社、新聞記者の道を歩み始めた。だが、駆け出し時代、歴史家の発言を捏造したことが発覚、1年で解雇された。それでも次に安価な高級紙といわれるデーリー・テレグラフに再就職し、EUの前身を取材するブリュッセル(ベルギー)特派員になり、不正確で過激な記事を書き続けたという。この後、政治家に転身しロンドン市長も務めているから政治家として一定の力量はあるのだろう。
 
 人を見た目で判断してはならないことは言うまでもない。だが、人間の本性は外見に出てしまう。それは米国のトランプを見れば一目瞭然であり、ジョンソンにも言える。破天荒、ハッタリともいえる思い切った言動が大衆の人気を集める所以なのだろうが、どこか危うさを感じてしまう。ポピュリズムの典型なのだ。
 
 ジャーナリズムの基本原則は「独立性、公正、正直・誠実」であることだと、共同通信時代の先輩記者で論説副委員長を経てジャーナリズム研究者になった藤田博司が『ジャーナリズム』(新聞通信調査会)という本で書いている。言うまでもないことである。捏造という虚報や不正確な記事を書く記者が、政治家になってもその本性は変わらないはずだ。「情報を正確に伝え、自己の報道を絶えず検証し、間違いがあれば速やかに訂正する。これらの原則に立って、真実を追求し続けることで、初めてニュースの受け手の信頼を確保できる」と、藤田は筆を進めている。こうした基本原則から外れた記者活動をした人物が政治家となり、英国のトップに立った。不思議な時代だと私は思う。
 
 チャーチルは、第二次大戦を終えた後、ヨーロッパ統合を主導した。しかし、それは失敗に終わる。チャーチルの構想とは別に欧州共同体を経てマーストリヒト条約によって1993年11月1日に発足したEUは、離脱強硬派の新首相が率いる英国と絶縁(ジョンソン氏は10月末に離脱を表明〉する日が近づいている。チャーチルは「偉大な演説家。大酒飲み。才人。帝国主義者愛国者。夢想家。戦車の設計者。おっちょこちょい。暴れん坊。貴族。捕虜。戦争の英雄。戦犯。征服者。笑い者。レンガ職人。馬主。兵士。画家。政治家。ジャーナリスト。ノーベル賞作家……」と極めて多くの側面を持つ人物(アンソニー・マクカーテン『ウィンストン・チャーチル』角川文庫)といわれた。後世、ジョンソンはどんなあだ名で言われるのか。あるいは、そこまでの人物ではないのか……。
 
 写真 沖縄・糸満平和祈念公園から見た風景