小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1730 10年で1000万部減の新聞 使命を忘れたら衰退の一途

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 日本の新聞の発行部数は約4213万部(2017年・日本新聞協会)で、この10年で1000万部減ってしまった。驚くべき数字である。毎年100万部ずつ減少しているわけだ。この状態だと2018年の現在は4100万部台で、4000万部を割るのも時間の問題かもしれない。かつて第4の権力といわれた新聞はどこに行くのだろうか。  

 日本の新聞は宅配という独特の配達制度に支えられ、部数を維持してきた。日本新聞協会によると、2007年の1世帯当たり(約5171万世帯)の新聞購読部数は1・01部だった。だが、翌2008年に0・98部に下がり、2017年は0・75部まで落ち込んでいる。こうした数字を見ると、新聞の衰退が激しいことが分かる。同じ世界で働いたひとりとして、寂しくむなしい限りだ。  

 インターネットという「恐竜」のようなメディアの爆発的普及によって若者の新聞離れが顕著になり、歯止めが利かない。つい最近、産経新聞が2020年10月をめどに販売網を首都圏と関西圏に限定・縮小する方針が明らかになった。東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬の首都圏と静岡、関西は大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山だけの販売になるという。実質的に産経は現在、この地域以外では発行部数は少ないだろうから、影響は少ないかもしれない。だが、これも新聞衰退の一つの現象といっていい。  

 ことし7月、驚くべき調査結果が発表になった。イギリスのオックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所が毎年実施している世界各国のデジタルニュースの利用状況調査である。このうち日本の新聞の信頼度調査で、朝日新聞が調査対象中最下位になったというのである。順位は1位日経、2位地方紙(筆者注・+共同通信か)、3位読売新聞、4位毎日新聞、5位産経新聞、6位朝日新聞――だったという。

 朝日がなぜ6位になったのか。この調査で日本部門の解説を担当した共同通信の澤康臣記者は概略「近年、朝日は自民党と右寄りメディアの両方からの批判にさらされてきた。朝日の信頼度が低いのは、こうした右派からの声高で党派的な批判から来る高いレベルの不信の結果だとわかっている」と分析した。政権寄りといわれる産経と読売が朝日よりも信頼度が高いという調査結果に、おかしな世の中だと思わざるを得ない。紙媒体ではなくフェイクニュースが氾濫するネットというデジタルニュース利用者を対象にしているから、このような結果になったのだろうか。  

 新聞の最大の使命は権力の監視役である。決して政権に迎合してはならないことは、戦争によって国民を極限まで追い込んだ戦前を見れば明らかだ。それを忘れたか、あるいは無知なマスコミ関係者は首相に誘われ、酒席をともにする。それが新聞衰退へとつながっているのだ。  

 10月に仙台で開催された新聞大会で、経営者らが発行部数減や無読層対策にどう取り組むかを議論したという。その中で「新聞の記事は分かりにくい。記者が(書くべき内容を)正しく理解し、難しいことを分かりやすく書く必要がある」とか、「力のある記事や質の高い記事を届ける努力をしなければいけない」という意見があったそうだ。当然のことである。  

 それだけでなく「いくらいい新聞を製作しようとしても、部数減の流れは止められない。デジタル部門強化を続けていて、しばらくは紙とデジタルのハイブリット(異質なものの組み合わせ)経営だ」という話もあったという。新聞の未来はどうなるのだろう。米国では紙媒体が衰退し、デジタルメディアが台頭しているといわれ、特に地方紙は苦境に立たされている。公益財団法人新聞調査研究会の調査では、全国紙の購読率の下落が続いている一方で地方紙は横ばいというから、地域に根差した地方紙は頑張っているといえる。健在な日本の地方紙。紙とデジタルの住み分けは今後うまくいくのだろうか。  

 写真 ロンドンにて