小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1699 できるのかパラリンピック 障害者雇用水増しの国なのに

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 かつて、職場の同僚に半身が不自由な同僚がいた。彼女は自由な方の手でパソコンを打ち、きっちりと仕事をこなしていた。誠実でまじめだから同僚たちから信頼されていた。障害者雇用で採用された一人だった。障害者雇用の義務がある国の行政機関の多くで雇用した障害者数を水増しするというでたらめが発覚し、怒りを覚えるとともに、彼女のことを思い出した。こんな国が2020年にパラリンピックをやるという。まやかしであり、開催する資格はないと私は思う。  

 障害者の雇用は、「障害者の雇用の促進等に関する法律障害者雇用促進法・昭和35年法律第123号)に基づいており、国や自治体、企業は法定雇用率以上の障害者を雇用する義務(当初国、自治体=1・9%、企業1・5%、今年4月から国、自治体=2・5%、企業2・2%)がある。雇用者側は、雇う対象の人が障害者手帳の交付を受けたことを確認しなければならない。ところが、国のさまざまな機関は、それらを確認せず、がんや糖尿病などの人まで障害者として認定、障害者の雇用数を大幅に水増しし、雇用義務を達成したように装っていたのだ。  

 水増し数は国税庁1022・5人、裁判所641人、国土交通省603・5人、法務省539・5人などという数字で、新聞で見て驚くと同時に唖然とした。新聞には「障害者雇用うっとうしいのか」という見出しで、障害者の怒りの声が記事になっていた。当然のことである。民間企業には、法律を守れと高圧的態度を取り、違反した場合はペナルティーまで課していながら、自分たちのことには甘い姿勢なのである。この問題は、共同通信の特ダネで発覚したそうだ。厚労省は他の省から算定基準について問い合わせを受けた6月下旬からこの問題で調査を続けていたのに、報道されるまで公表をしなかった。  

 地方自治体についてはまだ実態が公表されていないが、国に右ならいをしているとみていいだろう。この法律は障害者と健常者との働く機会の均等や障害者の待遇の確保、職業人としての自立を促すことが目的だ。しかし、このような水増し行為は、障害者の働く場を奪ったことになり、法律はないと同様だった。国がこんな体たらくなのだから、法律など守らなくていい、税金も払いたくないと思う人は少なくないだろう。  

 物事には表と裏がある。口ではきれいごとを言っておきながら、やっていることは実は薄汚い。そんな人物たちが大手を振って歩いていることに、あらためて気が付いた。安倍晋三政権は「1億総活躍社会」を掲げるが、まやかしに過ぎない。