小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1683「酷暑」の夏 涼を求めて

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 新聞に「酷暑」の見出しが躍っている。外からはやかましクマゼミ(熊蝉)の鳴き声が聞こえる。きょうも暑くなりそうだと思いながら、部屋の温度計を見ると、午前8時を少し回ったばかりなのに、既に30度を超えている。つい「暑い!」と口走ってしまう。すると、体中から汗が吹き出しますます暑苦しくなっていく。避難所暮らしの西日本豪雨の被災者がつらい日々を送っていることを思い、我慢、我慢と言い聞かせる。

 そういえば、クマゼミアブラゼミ(油蝉)よりも目立つようになったのは2、3年前ごろからだった。アブラゼミも暑苦しいが、クマゼミはさらに輪をかけ暑さを増幅させるほどうるさい。関東地方以西の平地に分布するセミで、体長は44~50ミリという日本に分布するセミの中では最大種のようだ。温暖化によって生息域が次第に北へと拡大していることは間違いない。福島県が北限という調査結果もあるが、さらに北上しているかもしれない。  

 自然界の変動はクマゼミだけではない。人間の住む地域への熊の出没はもう珍しいニュースではなくなった。私の住む周辺でもタヌキやハクビシン、イノシシによる農作物へ被害が続出している話もよく聞く。近所の貸農園で野菜をつくっている人は、「イノシシとハクビシンにやられ、収穫の楽しみを奪われてしまったことが何度もありますよ」と話してくれた。それだけでなく、最近は人災(野菜ドロボー)もあるというから驚いた。  

 知人によると、畑を借りている人たちは毎日顔を合わせてあいさつをするから、ほとんど知らない顔はない。しかし、時には見知らぬ人物がやってきて、借り主を装い堂々と野菜を収穫して行くというのだ。別の日に本当の借り主がきて、がっかりしているのを見て、先日の人物が野菜を盗みにきたことに気づいたという。そこで知人たちは、対策を練った。見知らぬ人物がやってきた際には何人かで声を掛けて様子をうかがうことにした。すると、その人物は「散歩に来た」などと適当な話をして帰っていき、その後は現れなくなったという。それにしても、盗んだ野菜の味はどんなものだったろうか。おいしいわけはないと思うのだが……。  

 話をセミに戻す。俳句歳時記によれば「蝉」は夏の季語になる。アブラゼミ、みんみん、クマゼミ、蝉時雨も夏のものだ。だれでもが知っている芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」はその代表だろう。一方でヒグラシ(蜩)やつくつく法師(法師蝉)は秋の季語である。子どものころの夏休み、昼寝をしていると、ヒグラシの「カナカナカナ」という哀調ある鳴き声とともに、涼風が吹いてきたことが何度もある。あれは夏休みも終わりに近い、晩夏のことだったのだろう。