小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1312 山茶花の赤い花 温暖化で早まる開花時期

画像

 遊歩道にけやきの葉が舞落ちる季節になった。けやきの木を見上げると、茶や赤い色が増している。10月も最終週になったのだから、落ち葉が増えるのは当然なのだ。近くの公園では、山茶花の赤い花が咲き出した。ことしの立冬は来週の11月7日だが、冬はもうそこまで近づいている。

 日本の七十二候で、立冬の「初候」は「山茶始めて開く」(この山茶は、椿ではなく山茶花のこと)だ。 夏目漱石は「山茶花の垣一重なり法華寺」という句を残した。 この法華寺は奈良にあり、和辻哲郎の名著『古寺巡礼』でも光明皇后が使ったという伝説がある浴室(カラ風呂という)や国宝の十一面観音像について詳しく紹介している。

 山茶花の垣根越しに見る法華寺の姿は、風情があるに違いない。 山茶花は俳句では「冬」の季語になっているが、昨今は温暖化のため十月下旬に開花することも珍しくないようだ。散歩の道に咲く花も、以前と比べ咲く時期に変化があるように思えてならない。 漱石には山茶花を詠ったもう一句がある。

山茶花の折らねば折らで散りに鳧(けり)

 漱石の親友だった正岡子規にも当然、山茶花についての句がいくつもある。以下の句は有名だ。 山茶花のここを書斎と定めたり 山茶花の垣根に人を尋ねけり 文芸評論家の杉本秀太郎は、『花ごよみ』(講談社学術文庫)の中で、山茶花の思い出に触れ、坂道を歩いて山茶花の赤い花の植え込みを見ると、暑苦しくて腹が立つとしたうえで、「山茶花は白い花でなくては冬の身が引き締まらない。白い山茶花が散りかかる門の下なら、いつでもよろこんで通り抜ける用意がある」と、山茶花は白がいいと強調している。

 杉本は京都の有名な旧家・杉本家の当主で、京都を知り尽くした人物だ。 私は、赤い花に対し杉本のように暑苦しいとは思わない。白も好きだし赤も嫌いではない。漱石と子規の句には山茶花の色がないが、2句の垣根はどんな色の花が咲いていたのだろう。

画像
 
画像
 
画像
 
画像