小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1261 一陣の涼風が アジア教育友好協会の本『輝く瞳とともに』

画像 アジアの山岳地帯で学校を建設しているアジア教育友好協会(AIFA)という認定NPOがある。私も会員になっているこのNPOが、ことしで創立10周年を迎えた。ラオスベトナム、タイの山岳少数民族地帯で建設した学校は191校になる。

 10周年の記念に『輝く瞳とともに アジアの途上国に学校をつくった人たちの物語』(かんき出版)という本を出版した。私(ブログ筆者)とAIFAの共著である。「この本には、どのようにしてAIFAが山岳少数民族地帯で学校建設に取り組み、村々に溶け込んだのか、支援者の声や現地の実情を中心に克明に記されている。

「編著者からのメッセージ」で、私はこの本のタイトルの「輝く瞳に」について以下のように触れた。

「私は2009年9月、日本の学校の教師たちと一緒にAIFAの谷川(理事長)さんらの案内でラオスを訪れた。そこには美しい瞳の子どもたちがいた。山岳地帯のいくつかの学校を訪問し、子どもたちに共通するのは輝く瞳だと思った。

 ラオスの子どもたちと同じように、かつては日本の子どもたちも輝く瞳を持っていたはずだ。だが、登下校に出会う子どもたちの目の輝きはラオスの子どもたちには及ばない。それはなぜなのだろうか。識字率では大幅に上回っていても「幸福」という度合ではどちらが上なのだろうと、考える」

 このように、本をめくると、学校をつくるために寄付をした人たちが現地を訪れた際、同様に子どもたちの「瞳の輝き」に心を打たれたエピソードが随所に出てくる。山岳少数民族地帯の子どもたちの純粋性は、私たちが失ったものを思いださせてくれるのかもしれない。

 AIFAの谷川理事長は、丸紅の元商社マンである。総合商社は「ミサイルからラーメン」までその取り扱う分野は多彩で、世界の隅々まで網を張り巡らしている。籾井NHK会長(元三井物産)のような変わった人物は例外として、私の知る限り、幅が広くて人間的にも魅力がある人が多い。

 谷川さんの商社マンとしての豊富な現場体験とアイデアを生み出す力がAIFAの事業にも生かされたのである。対象の地域は山深く、訪問するには難渋する。それでもAIFAの人たちは道なき道をたどって学校を必要とする山村に入り込み、村の人たちとギリギリまで話し合い、その上で学校を建設した。

 これまでの日本からの支援は「現地での学校建設」までだった。しかし、AIFAはさらに2つの取り組みを入れ、難しい表現だが「三層構造理念」という独創的理念を事業活動の根幹とした。 1つ目はもちろん学校建設。2つ目が「建設に当たっては学校に通う子どもたちの親や地元の住民が参加、協力する」3つ目は「建設した学校と日本の学校がフレンドシップ協定を結び、国際交流する」―という。

 本には2、3の具体的な話が紹介されている。 AIFAのこの国際交流・国際支援には、原発事故で全村避難という困難な事態が続いている福島県飯舘村も「ふるさと納税制度」を利用して協力している。8月2日に開催された10周年の集い・出版記念パーティには菅野典雄村長も出席した。

 この本には、日本側の支援者や学校関係者のほか現地NGOの人たちも紹介されている。ラオスのノンさんという女性、ベトナムのトランさんという元ボートピープルら個性的で魅力ある人たちも登場する。このような人たちが支えになって、AIFAという国際支援団体は10年を迎えたのだ。

 私は21世紀になって、少しは落ち着いた時代になるのかと期待していた。しかし、それは裏切られ、現在の国際情勢は混迷の一途をたどっているといっていい。昨今、日々のニュースを見ていると、長崎県佐世保市の女子高校生による同級生殺害事件など気持ちが落ち込むことが少なくない。そんな中にあってこの本を読んでもらえば「一陣の涼風」を感じることができるのではないかと思う。ささやかな力でも、いつかは大きな力になると信じている人たちの存在がその背景にある。

アマゾン『輝く瞳とともに』

アジア教育友好協会