小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

966 「虚報」と「真実」 2冊の新聞記者本を読む

画像 新聞は「社会を映す鏡」といわれる。時代を的確に映し、記録することが新聞の使命ということなのだろう。2冊の本はそうした役割を担ったはずの新聞記者や新聞社が疲弊し、病んでしまった実態を書いている。

「虚報」(文春文庫)は元読売新聞記者である堂場舜一のフィクションで、「真実」(柏書房)は元北海道新聞記者で4月から高知新聞記者になった高田昌幸の体験を基にしたノンフィクション作品だ。斜陽産業といわれて久しい新聞業界の実情が生々しく描かれた2冊の本を読むと、新聞の未来は暗いと確信せざるを得ない。

「虚報」は、連続する集団自殺の裏に有名大学教授のサイトが絡んでいることを追う2人の社会部記者の話だ。2人はベテラン遊軍記者と社会部に支局から転勤してきた若手記者で、若手は功を焦る余り、自殺志願の若い女性の話を裏取りせずに記事にしてしまう。それは全くの虚報だったのだ。

 一方、「真実」は、北海道警の裏金問題報道で新聞協会賞を受賞した高田らが出版した2冊の本の記述をめぐって、元道警総務部長から名誉棄損で訴えられるが、その裏で北海道新聞幹部と元総務部長の秘密の交渉が持たれ、警察の闇を追及したはずの新聞社が警察権力に迎合していく経過を詳細に明かしている。

 堂場はこの小説で「失敗の話を書きたかった」そうだ。その意図通りの暗い小説だ。堂場が元読売記者だっただけに記者の日常、新聞社の描写はリアルである。事実は小説より奇なりで、同じような失敗が報道の世界では繰り返されている。最近も、2歳の女の子が不明になり、母親が死体遺棄容疑で逮捕された大分の事件で、共同通信社が別の母子の写真を2人の写真と配信、編集局長らが更迭されたばかりだ。

 一方、「真実」に描かれた北海道新聞の実態は、寂しいばかりである。北海道警の裏金問題を暴き、ついにその存在を認めさせた新聞社が、手のひらを返すように警察にすり寄っていく。その結果、絶望した記者たちはこの新聞社をやめて行った。筆者の高田もロンドン勤務から帰って退職、4月に故郷にある高知新聞に入社しという。

 北海道新聞社が活気にあふれた新聞に戻るのは容易なことではないと思わざるを得ない。それにしても、52歳の高田を入社させた高知新聞の度量はたいしたものだ。 マスコミは、第4の権力といわれる。だが、その実態はこんなものかと思う。強大な国家(あるいは警察)権力の前には、風にそよぐ葦のような存在であることを示している。そう思って、新聞を読めば失望することも少ないのかもしれない。画像