小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

931 普天間問題特ダネの行方 一つになった海と空の色の下で

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 沖縄に所用で行った。空港で地元の新聞・沖縄タイムス朝刊を買うと、一面トップに「米、辺野古断念へ」という大きな見出しが躍っている。4日のことである。

「平安名純代・米国特約記者」という署名記事で、沖縄の米海兵隊のグアムへの移転をめぐり米国防総省が米議会との水面下の交渉で、米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沖への代替施設建設を断念する意向を伝達していた―という内容だ。

 この大きな見出しからして特ダネに違いない。 この後、日米両政府が米軍普天間移設と切り離して沖縄の米海兵隊のグアム移転を先行させる方針で大筋合意したことが明らかになったため「普天間は固定化してしまうのではないか」(現状のまま継続して使用)という不安視する声が現地では強くなった。

 これに対し日本政府は「普天間固定化につながらないよう、米国と全力で協議したい」「グアム移転と普天間移転をともに進める」(いずれも国会での野田首相の答弁)-と、火消しに躍起になり、6日にワシントンで開かれた審議官級の協議で「普天間辺野古への移転の方針を確認した」というニュースが流れている。

 普天間の移設問題は混迷を極めている。その原因をつくったのは、鳩山元首相をはじめとする政治家だったことは言うまでもない。「最低でも県外。できれば国外」と大きなことを言って何もできなかった元首相のあとを引き継いだ菅、野田両政権とも打つ手はない。それに米政府が業を煮やしたことは間違いない。

 そして、沖縄タイムスの報道だ。日米政府双方からはこの報道を打ち消す発言が続いているが、それを信じるのはお人よしだ。 沖縄タイムスのライバル紙である琉球新報は、きょう(7日)の朝刊で「普天間固定化 危険放置は犯罪的だ」という社説を載せていた。

 市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性を知りながら固定化を容認するのは犯罪にも等しい不作為であり、県民挙げて閉鎖を要求していく必要がある―としたうえで普天間不要論を書き、「普天間抑止力説」も打ち消している。その内容は省くが「米国が普天間飛行場を手放そうとしないのは『兵士の血で勝ち取った基地』だからだ。太平洋戦争の残滓(ざんし)といっても過言ではない」とまで言い切ったことに、沖縄の歴史を感じる。 沖縄タイムスの記事が出た翌日、普天間がある宜野湾市の市長選が告示され、2人の候補者が立候補した。

 この選挙に絡んで沖縄防衛局長の講話、有権者名簿作成という不可思議な話が暴露され、一時は更迭との新聞報道が出たが、棚上げになった。民主党政権が迷走状態を続いていることを裏付けるものだ。 特ダネ記事に戻るが、この記事をそのまま後追いする新聞はなかった。だが、普天間辺野古へ移設するのがほぼ不可能に近いことはだれでも知っている。そんな沖縄の人たちの心を理解できない防衛局長を置くのだから、政府には名参謀がいないと断言できる。

 那覇空港に近い豊見城市の人工海浜公園で海を見た。同行の若い中国人学生は「青い海と空が一つになった。この向こう私の故郷がある」と話していた。感受性が強い若者の表現通り、この海の青さは遠くに行くと空につながっていた。こうした美しい沖縄の戦後は哀しみと苦しみの歴史なのである。

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