小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

531 マロニエの葉散る朝 届いた季節の便り

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 朝、犬と一緒に散歩していて遊歩道を通ると、マロニエの葉が風に揺れて散っている。 「はらはらと マロニエの葉散る 風の道」 なんて、ぶつぶつ独り言を言いながら、そうかことしももう秋なのだと思った。マロニエの実はとっくに落ちてしまっていて、黄色というより、茶色に近い葉がもう半分近くしか残っていない。

 友人や親類から秋の便りが届いた。北海道からは、「インカのめざめ」という新ジャガとかぼちゃが、東北からはコシヒカリの新米と1個500グラムもある梨の「新高」(にいたか)が新鮮な香りと味を伴ってやってきた。 ジャガイモの起源はアンデスの高原地帯(ペルー)といわれる。アンデス地方で繁栄したインカ帝国の名前をとった「インカのめざめ」は小ぶりだが、とても上品な味だ。

 インカ帝国はスペインによって滅ぼされたが、ジャガイモはスペインからヨーロッパに広がった。最初は観葉植物として鑑賞用に栽培されていたが、その後フリードリッヒ大王らドイツ・プロイセンの大王たちによって食用として広められ、いつしか世界の貴重な食料となった。

 ゴッホの絵に「馬鈴薯を食べる人々」がある。ジャガイモは19世紀以降、簡素な生活を描写するのに使われたそうだ。9月のポルトガル・スペイン旅行ではジャガイモ料理があきるくらいよく出てきた。ヨーロッパの人にとって、ジャガイモは主食に近い食べ物なのだろう。

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 一方、梨の新高(にいたか)は赤梨系の晩生種で生産量が4番目に多い人気品種と辞書には書いてある。天の川(新潟産)と今村秋(高知県産)を交配してできたこの梨は、両品種の原産地が名前の由来だそうだ。歯ごたえがあり、甘くて香りもいいし、大きいので食べごたえがある。

 コシヒカリは、新潟県農事試験場(現在の新潟県農業総合研究所)で農林22号と農林1号の交配で誕生したが、実際に農家によって栽培が始まるのは誕生してから10年近い歳月が必要だった。現在でも消費者の人気は圧倒的に高く、わが家でも食べているのはコシヒカリがほとんどだ。 かつて、仙台に住んだことがある。

 当時は宮城県山形県など東北地方のほとんどで「ササニシキ」という品種が「おいしい米」として評判だった。この品種を開発した人が農業試験場に現役でいて、話を聞いてから米の品種改良に興味を持った。東北各県の農業試験場を回って、品種改良にまつわる話を研究者から聞いて回った。

 秋田ではササニシキに負けない新品種をつくろうという機運が盛り上がっていた。人気品種の「あきたこまち」が奨励品種として世に出るのはそれから10年後の1984年のことだった。 日本の秋の食卓は、豊かだ。ここで紹介した3つの食べ物だけでなく、この季節にはおいしい食べ物が次々に食卓を飾る。

 秋は好きな季節だ。朝の乾いた空気の中で、犬の散歩をするのは心地がいい。体の眠りを覚ましたあと、送ってくれた人たちの顔を思い浮かべ、感謝をしながら、季節の味を楽しむ。それはとてもぜいたくなひと時だ。(写真はゴッホ馬鈴薯を食べる人々)