小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

349 繰り返す歴史 塩野七生「ローマから日本が見える」

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 小さな都市国家だったローマがいつしかヨーロッパを席捲する巨大帝国になり、長い間ヨーロッパの支配を続ける。その歴史を塩野七生は「ローマ人の物語」(全15巻)としてまとめる。その蓄積を背景に古代ローマの攻防の歴史を振り返り、現代日本に対する塩野の見方を示したのがこの本だ。

 ローマ帝国といえばペリクレスカエサル(シーザー)、アウグストゥスが有名だが、塩野は古代ローマの指導者の通信簿という面白い評価を載せ、ペリクレスカエサルの2人には知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御力、持続する意志の5項目で100点満点をつける。この2人以外はけっこう厳しい点数だ。

 この5項目はイタリアの高校で使われる教科書で紹介される「指導者に求められる資質は次の5つ(知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御力、持続する意志)であり、カエサルだけが、このすべてを持っていた」という。日本なら決断力、実行力、判断力というだろうが、イタリアは違う。

 いずれにしろ、カエサルはすべてを満たしたリーダーだった。塩野によると、どのような政治システムでも当初は善だったが、そのシステムも時間を経るに従い、マイナスに変わっていく。そこが問題だとカエサルは指摘した。その上で塩野は言う。「大切なのはまず自分たちが置かれた状況を正確に把握した上で、次に現在のシステムのどこが現状に適合しなくなっているのかを見る。そうしていく中で初めて捨てるべきカードと拾うべきカードが見えてくる」。

「歴史は繰り返す」という。古代ローマの指導者と現代の世界の指導者たちを比べると、長い歴史を経ているのに、大きな進歩はないように思える。しかもいま世界のリーダーは不在だ。そして日本の場合、政治家の資質の問題もあって、国民の政治家に対する信頼感は極めて薄い。このために「ちょっとした失敗」でも、政治家は退路を余儀なくされる。塩野は「政治家にもう1回チャンスを与えよう」という。とりあえず任せる。そして十分な働きをしない政治家はお払い箱にする-というのが塩野の提言だ。  

 いま、世界情勢は米国発の金融危機、株式市場の大幅下落という不安定要素が続いている。これからの生活に不安を抱える人々が少なくない。そんな時に塩野の本を読むと、力が湧いてくるような思いになる。骨太な文章であり、塩野の分析力・洞察力の鋭さが随所に出ている。こうした洞察力を日本の政治家や官僚が持ち合わせていれば、日本は借金国家にならず、もっと健全な国になったはずだと思う。

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