小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

766 超大国でも長期安泰はない ハンニバルの警告

 北アフリカチュニジアの政変では、カルタゴという地名が登場する。ああ、あのカルタゴかと思う。塩野七生の長編「ローマ人の物語」の最初の方に「ハンニバル戦記」があり、カルタゴの戦術家ハンニバル・バルカとローマとの戦い(ポエニ戦役)が描かれている。

 ローマにとってハンニバルがいかに手強い相手だったかを物語る言い伝えとして、イタリアではいまでも子どもが悪いことをすると、親は「ハンニバルが来て、連れて行ってしまうよ」と叱ると塩野が書いている。 ハンニバルとの戦いから既に2000年以上を経ているにもかかわらず、こうした言い伝えが残っていること自体、驚きだ。

 ハンニバルは、ローマとの戦いのため、紀元前218年、スペイン、スイスを経て冬のアルプスを越えて5万人の兵と37頭の象を率いてイタリアに進軍し、ローマとの間で死闘を展開する。冬のアルプス越えなどだれも想像しないことをやってのけた戦術の天才だったのだ。

 しかし、好敵手スキピオとの戦いに敗れ、カルタゴに戻ったハンニバルは、母国の再建に尽くしたあとシリアに亡命。さらにローマの追手から逃亡の末、自殺し、64年の生涯を終えたといわれる。

 今回の政変は、一人の若者の焼身自殺がきっかけだった。相次ぐ反政府デモの高まりでベンアリ大統領がサウジアラビアに亡命、23年続いたベンアリ独裁体制が崩壊し、国花にちなんで「ジャスミン革命」と呼ばれているそうだ。

 しかし、現地に入ったメディアの報道を見ると、首都のチュニスや観光地のカルタゴでは、依然混乱が続いているという。 政府に対する抗議デモは、インターネットの交流サイトである「フェースブック」(世界最大のSNS=ソーシャルネットワーキングサービス=といわれ、ユーザーは世界で5億人を超え、日本でも180万人が利用しているという)や「ツイッター」などを通じた呼びかけによって、拡大したといわれる。

 独裁政権といえどもインターネットというグローバル化した情報手段を抑えることができなかったことに、時代を感じさせる。 ハンニバルは、情報戦でも優れていたという。陣中で使う合言葉を頻繁に組み替え、味方の陣営に簡単に敵のスパイが入れないようにし、ローマ軍を油断させるため「ハンニバル重病」という偽情報を噂として流したこともある。

 そんなハンニバルの言葉(ティトゥス・リウィウスのローマ建国史)として「いかなる超大国といえども、長期にわたって安泰であり続けることはできない。国外に敵を持たなくなっても、国内に敵を持つようになる。外からの敵は寄せ付けない頑健そのものの肉体でも、身体の内部の疾患に苦しまされることがあるのと似ている」がある。

 ローマ帝国に向けたものだが、長い間独裁体制を続けたベンアリ氏の末路を予言したような言葉でもある。それはいまも独裁を続ける国への警告と受け止めることができる。

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