小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1343 春をどう感じるか 手賀沼よよみがえれ

画像 3月はどんな季節なのだろう。詩人の大岡信は「大地が再生し古いものと新しいものが交替する時期」と述べている。そんな3月の初めに、以前から続いている「子規の会」という句会があった。

  私を含めほとんどが俳句の初心者である。15分程度で当日の「席題」について1句つくったあと、提出済みの「兼題」の句を含めて好みの句を選び、講評をした。「春らしいいい句がそろった」とは、参加者の声である。同感だ。

  席題(当日出された題)は「梅」「紅梅」「白梅」で、兼題(あらかじめ出された題)は「春の海」「春の湖」「春の川」、そして「春興」「春愁」である。

  選ばれた句は以下の通りだ。

  1、春の海猫も欠伸の船着場

 2、春の海発電風車ゆったりと

 3、短艇の水脈(みお)割らるる春の湖

 4、春の海修羅の渚に桜貝

 5、はぎ濡らしヒジキ刈る海女春の海

 6、悠然と光ものせて春の川

 7、ひらひらと赤児手を振る春うれし

 8、夢砕けアラブの空の春かなし

 9、一人居に地球儀回す春愁ひ

 10、春興や石段いっきに駆け上がり

 11、松陰のこと語り合う探梅行

 12、亡き吾が子の植し紅梅開きけり

 13、梅咲くや故郷の廃家傾きし

 14、道場に響く稚声(わかごえ)梅香る

  この中で、共感を示す人が一番多かったのは「短艇の水脈割らるる春の湖」という3番目の句だった。作者は千葉県我孫子市手賀沼を思い浮かべてこの句をつくったという説明をしていた。

 かつて手賀沼はウナギもとれるきれいな沼だった。明治から大正にかけては志賀直哉武者小路実篤ら多くの文化人が我孫子に住み、手賀沼の周囲を散歩した。しかし、戦後の高度経済成長期以降、この沼には生活排水や産業用水が流れ込み、化学的酸素要求量(COD)の数値が日本でワースト1になるなど、汚れてしまった沼の代名詞になった。

  さまざまな対策がとられ、水質改善の傾向にあるが、同じ千葉県の印旛沼とともに他の地域の沼に比べると汚濁度は依然として高い。それだけに、この句は「きれいな沼によみがえってほしい」という作者の願いが込められているのではないかと、私流に解釈した。

  私は1の句が好きだ。句会の主宰者は「春の海猫欠伸する船着場」と手直しもできると述べたが、俳句の奥深さを感じる。

 ちなみに私の句は4番目と13番目である。4番目の句は春の季語がダブる(春の海と桜貝)ミスを犯した。