小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1855 修羅場に出る人間の本性 喫茶店の会話から

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 最近、新聞を読んでいて米国の政治家・物理学者ベンジャミン・フランクリンの言葉を思い浮かべることが多い。今朝もそうだった。この言葉を「実践している」(皮肉です)に違いない政治家や官僚のことが朝刊に出ていた。私だけでなく普通に生きている人にとって恥ずべき事柄と思うのだが、どうもそうでもない日本人が増殖しているようだ。

 行きつけの喫茶店でお茶を飲んでいたら、私と同じように思っている人がいることを知った。近くの席で2人の高齢者(いずれも75歳前後の男性。Bさんの方が年上らしいことが2人の言葉遣いで分かった)が話しているのを耳にした。それは以下のような会話だった。  

 A こんな言葉を知っていますか。「理性のある動物、人間とは、まことに都合のいいものである。したいと思うことなら、何にだって理由を見つけることも、理窟をつけることもできるのだから」

 B ああ、アメリカのフランクリンの言葉だよね。昔、自伝を読んだことがあるので覚えていたんだ。

 A  今日の朝刊を読んでいましたら、政治家も官僚も何をやっているのかと腹が立ってしまいましたよ。本当に自分たちがしたいことに理屈をつけているんですから……。

 B  そうだね。この新聞(店にあった全国紙)を見ると、Aさんの言う通りだね。「新型コロナウイルス感染対策本部会合に小泉環境相ら閣僚3人欠席」とか「東京高検検事長の定年延長で人事院局長が答弁撤回」、「『桜を見る会』問題で首相答弁の信頼性揺らぐ」、「女性官僚と出張し隣同士の部屋を行き来できるコネクティングルームに4回も泊まっていた和泉首相秘書官を首相が注意」と、ざっと見ただけでこんな記事がある。政治家、官僚の劣化甚だしいと言っていい。

 A  国会は「言論の府」と言うそうですね。でも、この言葉はもう死んでしまったと思うのです。私から見たら、国会は「屁理屈、虚偽言論の府」に成り下がってしまいましたね。発言の撤回や解釈の変更など、何でもありの姿を見ていますと、この国はどうなってしまうのかと暗澹たる気持ちになるんですよ。

 B  修羅場になると、その人の本性がはっきり出るそうだね。3・11もそうだったが、新型コロナウイルス問題も今の日本にとって修羅場といっていいかもしれない。そんな中で大事な政府の会合を政務官にまかせて自分は選挙区の会合に出るという閣僚の行動は、国民より自分が大事という姿勢が浮かびあがってしまったね。そんなことも分からない人物が大臣を務めていることにあきれてしまうんだ。こんな大臣たちが言う真摯という言葉は垢にまみれた感じで、真摯が泣いている。彼ら彼女らの答弁する姿を見て、私は悪い処世術を身に着け大人になった人なんだと思ってしまったよ。

 A  対策本部長の安倍首相も14日の会合は8分だけ出て、そのあと帝国ホテルで日経新聞の会長、社長と3時間も会食したことが首相動静に載っていましたね。「魚は頭から腐る」というロシアのことわざがあるそうです。国会で野党議員はこれをもじって「鯛は頭から腐る。そろそろおやめになったら」と言ったら、「意味のない質問だ」とヤジを飛ばして大騒ぎになったのをテレビで見ました。この新聞について、ニューヨークタイムズの東京支局長が以前「企業広報掲示板だ」と書いたことを思い出しました。今なら「政府・企業広報掲示板だ」と書き直すかもしれませんね。

 B ところで、新型コロナウイルス問題は大丈夫なのだろうかね。クルーズ船の感染者が驚くほど多いし、海外から日本政府の対応に批判が殺到している。船内に入った岩田という神戸大教授が感染対策が不備だったとユーチューブで訴えているのを見たよと、孫娘が言っていたな。検査で陰性だった人たちを公共交通機関で帰宅させたそうだけれど、海外の人たちは帰国後2週間は帰宅させないという記事もここにあるよ。このウイルスについてまだ詳しい実態は分かっていないだろうから、日本政府のやり方に不安視する声もあるね。本当に大丈夫なんだろうか。相手は未知のウイルスなのに……。

 A うーん。分かりませんねえ。……私たちは引退した身ですから、こんな政治の現状にできることは少ないですよね。ヘロドトスという古代ギリシアの歴史家がペルシア戦争を描いた『歴史』という著作の中で「この世でなにが悲しいといって、自分がいろいろのことを知りながら、無力のためにそれをどうにもできぬことほど悲しいことはない」と書いているのを思い出しました。

 B  引退の身、そうか。うーん。悲しいね。でも、何とかしないとだめだね。NHKの番組じゃないけれど、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」とチコちゃんに叱られてしまいますよね。次の選挙はいつになるのかなあ。  私も仲間に加わりたいと思った2人の会話は、この後も続いていた。だが、知らない顔だから遠慮した。この後、私は急ぎの用事を思い出し席を立った。会計をする際、レジ近くにあったテレビ画面には「クルーズ船の乗客2人が死亡」というニュース速報が流れていた。私は世の中を憂いていた2人がこのニュースを見て何を語るのだろうと思いながら、重い足取りで喫茶店を出た。  

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