小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1854 結末は奇想天外の悲喜劇 社会風刺の映画「パラサイト」

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「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)という韓国映画がアカデミー作品賞を受賞した。日本でこの言葉が使われるようになったのは、就職氷河期が続いた1990年代後半のことだ。辞書には「寄生生物・他人の収入に頼って生活している人を俗にいう語」(広辞苑)とある。世界的に格差社会(貧富の差)が顕著になっているから、この言葉は世界共通のものになっているといえる。大金持ちの家に入りこんだ貧乏一家がどのような結末をたどるのか。喜劇から悲劇へと発展する映画はメリハリがあり、結末は私の想像を超えていた。  

 韓国では、半地下にある住宅に住むのは最下層の困窮世帯といわれる。映画の4人家族もそうした極貧世帯で、ある時長男は外国に留学する友人の紹介で高台の高級住宅に住む大金持ちの家の女子高校生の英語の家庭教師になり、さらに妹もその家の男の子の絵の先生になり、2人はこの家の奥さんに気に入られる。その後、父親は自家用運転手に、母親は家政婦として入り込む。前任の運転手と家政婦は、巧妙な手段でやめさせた。4人は家族であることは隠し、見ず知らずの他人を装う。4人が大金持ちの家に入り込む経緯は巧妙で喜劇である。こうして4人は安定した収入を得るようになる。  

 だが、金持ち一家がキャンプに行った夜。外が土砂降りの中、4人がこの家でどんちゃん騒ぎをしている時、やめさせた家政婦がやってきて「地下室に忘れ物をしたので、取りに行かせてほしい」と懇願する。願いを聞き入れ、前の家政婦を家に入れたことから、物語は急展開するのだ。映画を見ていない人のために、この後のストーリーを書くことはやめるが、冒頭にメリハリがあると書いた通り、奇想天外の出来事が続くのである。主演の1人で4人家族の父親役のソン・ガンホはヒット作「シュリ」で初めて名前を記憶した俳優だ。この映画では、初めのうち脇役のような存在と思っていたら、後半の存在感はさすがだった。  

 日本の映画「万引き家族」(是枝裕和監督)が、カンヌ映画祭で最高賞のパルム・ドールを獲得したのは2018年5月のことである。当時ネットの一部には「このような日本の恥部のような姿を世界にさらすのはけしからん」という声もあったし、日本政府関係者から祝福の言葉はなかったことを覚えている。「パラサイト」も「万引き家族」も格差社会をテーマとしている。見ていて、とても面白いが、社会風刺の映画なのである。こうした作品が国境を超えて評価されるのは、世界的に貧富の差が拡大し続けていることが背景にあるのだろう。そのことを政治家は知っていて、知らんふりをしているのに違いない。  

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