小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1767辞書を引きながら…… 無常を感じる新元号発表の日

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 新聞、テレビが大騒ぎをしていた新元号が「令和」と決まった。多くの人たちは西暦表記に慣れているので、元号が替わっても何の影響もないが、元号とは何なのだろう。「元号法」という法律もあるが、よく分からない。「令」も何となく違和感がある。  

 元号法は2つの条文しかない。「1、元号は、政令で定める。2、元号は、皇位の継承があった場合に限り改める。」(三省堂『新六法』)これだけである。法律にはその法律を定めた意義や目的が掲げられているのだが、なぜか元号法にはない。仕方なく、辞書を引いてみた。  

 新明解国語辞典三省堂)では「その天皇在位の象徴として、年に付ける名称。[明治以降は一代一元に定められた]」とあり、広辞苑岩波書店)には「年号に同じ」という説明が書かれていた。広辞苑で「年号」を引くと、「皇帝が時をも支配するという思想から中国・漢の武帝の時に「建元」(西暦紀元前140年)としたのが始まりで、日本では645年に「大化」としたのが最初。天皇が制定権を持ち、即位や祥瑞(めでたいこと)、災異(天変地異)その他によりしばしば改めたが、明治以降は一世一元となり、1979年公布の元号法も、皇位の継承があった場合に限ると規定」(一部略)――とあった。こうした歴史の経緯や元号法の規定を見ても明らかのように、元号天皇制と密接につながっていることが理解できる。  

 新元号の「令和」に関しては、万葉集大伴旅人梅の花の歌の序文(新春例月、気淑風和)が典拠という解説が新聞にあり、「和」については特に説明の必要性はないが、戦争の時代ともいわれた昭和を思い起こす人もいるだろう。「令」は角川新漢和辞典によると、字の形は「人をひざまかせて、おふれを出す意味をあらわす」といい、以下のように使われる。①おふれを出す。言いつける。おふれ。言いつけ。『例』命令、号令、辞令、司令。②おきて。のり。きまり。『例』法令、政令、条令、禁令。③おさ。長官『例』県令。④よい、うつくしい。りっぱな。『例』令名、巧言令色。⑤他人の親族を敬っていうことば。『例』令嬢、令夫人。⑥しむ。させる。使役をあらわすことば。⑦もし。たとい。仮定のことば。  

 ほとんどが字の形の通り、上意下達の用語に使われるのだが、④が今回、元号に採用された所以だ。私はへそ曲がりなのでどうしても④よりも①②の方を思い浮かべてしまうのだ。そして、考案者(だれかは秘密扱い)の意図は別にして、命令されることで和んでしまう国民性を表しているという見方もできることに、言葉の難しさを感じるのである。

(新元号発表でマスコミが大騒ぎした1日の夜、闘病中だった共同通信社時代の同僚、原恭夫さんがひっそりとこの世を去った。穏やかな人柄で慕われた人だった。残念なことに満開の桜を見ることはできなかった。人の世は無常であることを痛感する。原さんのご冥福を祈ります)  

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 写真  1、朝霧の中、新緑が美しい2、森の向こうに朝霧が。陽光が優しい3、桜前線と歩調を合わせたように海棠も満開になった。