小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1469 つり橋と日本列島 明日への希望を

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 熊本で14日夜、最大震度7(激震、家屋の30%以上が倒れ、山崩れや地割れができる)という強い地震が発生し、多くの被害が出ている。気象庁が定めた震度階級のうち最も高い( 強い)震度であり、九州では初めてという。日本が地震国であることを再認識させ、あらためてこのような国土に立地する原発の安全性に危惧を抱くのだ。

 物理学者の寺田寅彦は、日本列島の特徴を「平生地震の研究に関係している人間の目から見ると、日本の国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもので、しかも、そのつり橋の鋼索があすにも断たれるかもしれないという可能性を前に控えているような気がしないわけには行かない」と述べている。

 この文章は『天災と国防』講談社学術文庫)の「災難雑考」にある。岐阜県の女学校が修学旅行で女学生を箱根に連れて行ったが、記念写真を撮ろうとした際つり橋の鋼索が切れて女学生が川に落ち、多くの死傷者が出た。寺田は事故に触れた後、このような分かりやすい表現で日本が地震多発国であることを警告したのだ。

 気象庁の震度階級は1949年に制定され、これまで最高震度の7を観測したのは阪神大震災(1995年1月17日)、新潟県中越地震(2004年10月23日)、東日本大震災(2011年3月11日)であり、強い地震が地域限定でないことを思い知る。

 熊本ではシンボルともいえる熊本城の屋根瓦が壊れて落下し、石垣も崩れ天守閣の2つの「しゃちほこ」がなくなったという。活断層のずれによる直下型がこんなにも強い揺れをもたらしたことにショックを受けている。 阪神大震災で被災した俳人・友岡子郷は震災直後の街を「倒・裂・破・崩・礫の街寒雀」(とうれつはほうれきのまちかんすずめ)という句にし、その後「ただひとりにも波は来る花ゑんど」(あとに残されたただひとりにも美しい波は寄せて来て、畑では花豌豆が咲いている)と詠んでいる。震災に遭っても、明日への希望を持ちたいと願う俳人の思いがこめられた一句といえる。

 熊本を指す言葉に「肥後もっこす」がある。武光誠著『県民性の日本地図』(文春新書)によると、「曲がったことが大嫌いながんこ者で、駆け引きが大の苦手」という意味だが、熊本の人たちはいったん信頼関係を築いたらけっして裏切らない心強さも持っているのだという。突然の大地震に見舞われた熊本だが、明日への希望失わずにもっこすぶりを発揮し、試練を乗り越えてほしいと願うばかりである。

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写真 1、二の丸公園から見た熊本城(この石垣は崩壊しなかったのだろうか) 2、市内から見た熊本城(いまは無残な姿になった)

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