1458 俳句は謎めいた水晶球・おかしみの文芸 ある句会にて
「俳句は硬直した読みしかできない標語ではなく、謎めいた水晶球のごときもの、すなわち詩でなければならない」。作家で俳人の倉坂鬼一郎は『元気が出る俳句』(幻冬舎新書)の中で、理想の俳句についてこんなふうに書いている。
正岡子規を愛する人たちが集まった恒例の句会に参加したが、「謎めいた水晶球のごとき詩」の域に達するのは難しいと痛感した。
俳人の金子兜太は『俳句のつくり方が面白いほどわかる本』(中経の文庫)で句会の意義を「ひとりで本を読むよりも、先輩や仲間の話を聞くことが上達への近道で、それができるのが句会。参加者は俳句が好きで、俳句を勉強するために来るので、肩書や年齢も関係ない」と述べている。
とはいえ、エッセイストの岸本葉子が言うように「句会の楽しみ(苦しみ?)は題を示されたときから始まる」(『俳句、はじめました』角川ソフィア文庫)のであり、私も岸本と同じ思いを抱きながら参加した一人だ。
今回の句会の兼題(事前に提出する)は「山笑う」と「花、花見、桜」の2つで、当日出される「席題」は「春」だった。繰り返すが「謎めいた水晶球のごとき詩」のような句は出たのだろうか。
(▽は主宰者から二重季語と指摘された句)
兼題「山笑う」
1、北陸やかがやき速く山笑う
2、留守の窓人うつろいて山笑う
3、夷隅路や右に左に山笑う4、山笑う浅間の牧の空高く(▽)
5、漱石役に髭の似合う子山笑う
6、胸いっぱい故郷を吸えば山笑う
7、山笑う畑耕す老い二人(▽)
8、その上は女人禁制山笑う
9、ランドセルカタコトなりて山笑う
参考「山笑ううしろに富士の聳えつつ」(島谷征良)
兼題「花、花見、桜」
1、街の音途切れる丘や初桜
2、ふと見れば空き家の庭に桜花
4、あかときに一人見にゆく朝桜
5、花筏漂う水に淡い影
6、森羅万象移ろい止めよ花の里
7、花びらも酔ってみたいか盃に舞う
8、着ぶくれて冷たき雨に花を待つ(▽)
9、舞う花の音もきこえん古刹かな
参考「家々や菜の花いろの灯をともし」(木下夕璽)
席題「春」
1、子等背負うランドセル押す春の風
2、春光やローカル線に客あまた
3、春光も首にショールの散歩道(▽)
4、雨上がり春のかほりに満つる宵
5、春嵐帽子おさえ背もかがめ
6、春の風こころあるなら杉避けよ
7、春風や地蔵の頭円く撫づ
8、春風や村の小さき六地蔵
参考「春風や闘志いだきて丘に立つ」(高浜虚子)
「俳句はおかしみの文芸」と言ったのは、コラムニストの天野祐吉だ。前述の倉坂の言葉に天野の言葉を付け加えると、17文字で表現する俳句の幅広さと奥深さを感じるのである。
「人を見ん桜は酒の肴なり」(子規・花見は花を見に行くんじゃない、人を見に行くんだ)
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