小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1363 読書の楽しみ 新しい世界への旅

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 読書の楽しみは何だろう。本を読むたびに新しい世界を知ることができ、脳が活性化する。だから、目が疲れても本を手放すことができない。以下は最近読んだ文芸作品だ。独断と偏見でその寸評を記してみる。

 鹿の王角川書店上橋菜穂子 2015年本屋大賞第1位に選ばれたファンタジー。舞台は遠い昔の世界。国家の争い、謎の疫病の流行は現代の出来事とそう変わらない。上下2冊の長編。読み終えるのが惜しいと思うほどの壮大なスケールの物語だ。

 忘れられた巨人早川書房カズオ・イシグロ イシグロは映画にもなった『日の名残り』で知られる日系の作家。6世紀ごろのアーサー王伝説を下敷きにしたファンタジー。老夫婦が謎の霧に覆われた中、息子を求めて旅を続ける。その果てに行き着いた場所で何が起きるのか。忘れられた巨人とは何だろう―。愛とは何かを考えさせられる作品。記憶がテーマだと多くの人が書いているが……。

 フランケンシュタイン新潮文庫)メアリー・シェリー 19世紀に書かれた名著である。生命の創造の研究からつくられた怪物、フランケンシュタイン。現代の遺伝子組み換えの技術は怪物を生み出すことはないのだろうか。メアリー・シェリーの作品は、現代科学への警告でもある。

 ザ・ピアニスト(春秋社)ウワディスワフ・シュピルマン 映画『戦場のピアニスト』の原作。第2次大戦下、ナチスドイツが侵攻したポーランドワルシャワで、廃墟の中逃亡生活を続けるピアニスト、シュピルマンの自伝。極限状況にあって人間の生死が運命に左右される恐ろしさを痛感する。

 桜守新潮文庫水上勉 いま桜の代表は染井吉野である。だが、この作品では染井吉野は最も堕落した品種であり、本来の日本の桜は山桜や里桜であることを桜の研究者に語らせている。研究者の教えを受け桜の保護のために生涯を送った庭師が主人公。病没した庭師の遺骨は、本人の希望で海津・清水の桜(滋賀県高島市)の下に眠っているという。

 銀漢の賦(文春文庫)葉室麟 友情を誓った3人の少年はその後、どのような運命を歩むのか。読後、清涼感に包まれた。漢詩の奥深さを知る。

 ある侍の生涯光文社文庫村上元三 かつて時代小説といえば、この人の作品を思い浮かべた人も少なくないだろう。江戸時代後期の正義心あふれる同心(与力の下の下級役人)の一生。時代小説の面白さを味わう。

 トライアウト光文社文庫)藤岡陽子 シングルマザーの新聞・運動部記者が戦力外通告を受けたプロ野球投手の取材を始める。仕事と子育てに悩みながら生きる主人公の姿がリアルである。著者は元スポーツ紙記者。

 希望の地図幻冬舎文庫重松清 著者は東日本大震災の被災地に通い続けたという。不登校の中学生とライターが見た被災地の風景は?フィクションとノンフィクションが入り混じった作品。私も通い続けた被災地の風景を思い出した。

 短編工場集英社文庫集英社文庫編集部編 浅田次郎伊坂幸太郎石田衣良荻原浩奥田英朗乙一熊谷達也桜木紫乃桜庭一樹道尾秀介宮部みゆき村山由佳……という現代の人気作家12人の短編集。小説のだいご味は短編にあるという。それぞれの個性が光るが……。

まとめて読書

写真は2010年9月に訪れたスロベニアの美しい湖・ブレッド湖