小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1429 続・風景との対話 読書について

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 調整池から霧が出ている。西の空には満月(寒月)の余韻の白い月が見える。師走の朝である。新聞の朝刊を開くと、読書欄には書評委員が選んだ「注目の本、心に残る本」各3点が紹介されていた。多くの委員がいるのに重なる本はほとんどない。それは読書の傾向が人によって異なるものであるかを示すものだ。

 私もこの機会に心に残ったことしの本、6点(フィクション4点とノンフィクション2点)を選んでみた。(6点にしたのは特に理由はありません)

 1、スベトラーナ・アレクシエービッチ(松本 妙子訳)『チェルノブイリの祈り――未来の物語』(岩波現代文庫)、ノンフィクション

 2、飯嶋和一『狗賓童子の島』(小学館)、フィクション

 3、中脇初枝『世界の果てのこどもたち』(講談社)、フィクション

 4、小熊英二『生きて帰ってきた男』(岩波新書)、ノンフィクション

 5、チャーリー・ラヴェット(最所篤子訳)『古書奇譚』(集英社文庫)、フィクション

 6、カズオ・イシグロ土屋政雄訳)『忘れられた巨人』(早川書房)、フィクション

 1、原発事故被害者の苦難を教えてくれる聞き書き。日本では1998年12月に単行本として出版され、東日本大震災後の2011年6月、文庫本になった。著者はことし、ジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞した。その理由は「我々の時代における苦難と勇気の記念碑と言える多声的な叙述に対して」。原発事故の悲惨さを克明に記したこの本を読めば、原発の再稼働が論外であるかに気付く。

 2、舞台は幕末期の隠岐・島後。父親が大塩平八郎の乱連座して島に流された少年の半生と隠岐騒動といわれた島民の体制への反乱を描いた歴史小説。細密画とさえいわれる飯島の表現がここでも生きている。

 3、旧満州で知り合った3人の女性の戦前、戦後の人生を通して、友情の大切さが伝わる。著者の3人への目線は柔らかい。

 4、シベリア抑留という過酷な体験をした歴史社会学者である著者の父親の人生を時代背景とともに記したノンフィクション。一人の人生を通じ、激動の昭和史を見る。  

 5、古書商が手に入れたシェクスピアの『冬物語』の原作といわれる奇書『パンドスト』(ロバート・グリーン)の初版本をめぐる謎解き。知的好奇心が満たされるはずだ。

 6、6世紀ごろのアーサー王伝説を下敷きにした、記憶がテーマのファンタジー。読者はイシグロワールドに入り込むはず。 あかるさや風さえ吹かず寒の月 三浦樗良(ちょら)

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写真・今朝の風景 1、満月の余韻 2、調整池の霧1 3、同2 4、同3 5、同4