小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1355 鳴かないカメの話 生態系の変化を考える

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「亀鳴く」という俳句の春の季語がある。これについて『俳句歳時記』(角川学芸出版)には「春になると亀の雄が雌を慕って鳴くというが、実際には亀が鳴くことはなく、情緒的な季語。藤原為家の題詠歌『川越のみちのながぢの夕闇に何ぞと聞けば亀ぞなくなる』(『夫木和歌抄』)によるといわれ、古くから季語として定着している」と、書かれている。

 そうえいえば、カメの鳴き声を聞いたことはない。つい先日、公園を散歩していて、池の岩の上で甲羅干しをしている2匹のカメを見た。こんないい環境ならカメが鳴いてもおかしくはないと思った。私は、2匹のカメが恋する雄雌で雄が雌を慕って鳴いているのではないかと想像した。

 そこは、自然を生かした公園の一角にある小さな池である。鯉が泳いでいるのをよく見かけるが、カメも生息していたのだ。池には所々に岩があって、別々の岩の上にカメが1匹ずつ乗っていた。それが雄と雌なのかは分からなかったが、恋する2匹が池の周囲にある山桜の花をのんびり見ているようにも見える。桜の花が水面に映っていて、なかなか風情がある。

 カメの種類はかなりある。このカメはアカミミガメ(別名ミドリガメ)とみられ、よく見かけるものだ。種類によって絶滅危機種に指定されているカメ(アカウミガメ)もいる。以前、大分県でウミガメの保護活動をしている人を訪ねたことがある。大分市の磯崎海岸では2010年からこのアカウミガメが産卵するようになり、NPOおおいた環境保全フォーラム(内田桂代表理事)のメンバーが海岸の清掃やパトロールなどの保護活動をしているのだ。

 磯崎海岸は大半が工業用地として埋め立てられたが、一部が地元の反対で埋め立てを免れ、砂浜が残っていた。この海岸で産卵が発見されたのは20年ぶりのことだった。ウミガメは産卵後、子ガメを孵化したという。ウミガメは世界の海洋に分布しているが、乱獲や生息環境の悪化などにより生息数が減少しており、アカウミガメ国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危機種に指定されている。

 内田さんらは他の海岸も含めた産卵地マップも作成した。アカウミガメはその後も大分の海岸に上陸し、産卵と孵化が継続している。ウミガメの卵は2カ月程度で孵化し、子ガメは海へと向かうが、外敵に襲われ、成長するカメはわずかであり、体に奇形があるものも少なくないという。だから、保護活動が重要なのだ。

 最近、海洋生物の異変をめぐるニュースが目に付く。アメリカ周辺海域ではアシカの大量死が相次ぎ、クラゲの仲間のカツオノカンムリ10億匹がアメリカ西海岸の砂浜に大量に打ち上げられた。日本では、茨城県鉾田市の海岸でのイルカの大量打ち上げが話題になったばかりだ。こうした海洋をめぐる異変は、温暖化など地球環境の変化が生態系に大きな影響を及ぼしていることを示しているといえるようだ。

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