小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1348 ミモザ咲く季節 ダンテが踏みし甃(いしだたみ)

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 庭にある2本の黄色い花が咲きました。いわゆる「ミモザ」です。1本はよく見かけるもので、こちらは「ミモザアカシア」、もう1本はやや色が薄い「銀葉アカシア」です。いずれもオーストラリア原産の初春の花です。

 歳時記には「マメ科の常緑高木。『ミモザ』は銀葉アカシアのフランス語名で、ヨーロッパでは復活祭(年によって3月21日~4月25日の間を移動する。2015年は4月5日)のころに咲く花として親しまれている」(角川・俳句歳時記)という説明がありました。

 ミモザ散るダンテが踏みし甃(いしだたみ)松本澄江

 ダンテ(1265~1321)は『神曲』で知られるルネサンス期のイタリア・フィレンツェ出身の詩人です。抒情詩人だったダンテは政争に巻きこまれ、故郷のフィレンツェを追放されてしまいます。その後フィレンツェに戻ることなく、北イタリア各地で流浪の旅を続けて『神曲』を書き上げました。

 友人のコラムニストの高橋郁男さんは詩誌「コールサック」で連載している『詩のオデュッセイア』第2回(77号)でダンテも取り上げ、『神曲』について「ダンテが古代ローマを代表する詩人・ウェルギリウスの導きで、地獄、煉獄、天国を遍歴するという長大な詩篇キリスト教的な世界観を、宇宙的構想のもとで博識を傾注して描き、後代の世界の詩・文芸や美術に大きな影響を及ぼした」と記し、次の詩を紹介しています。

 私たちの人生行路のなかば頃 正しい道をふみはずした私は 一つの暗闇の森のなかにいた。(筑摩世界文学大系・野上素一訳、筑摩書房

 松本澄江の句からは、ミモザが散って黄色く染まった石畳の上をダンテがとぼとぼと歩く姿を想像することができます。ミモザは「最高の女性」や「最高の愛」にもたとえられるそうですから、歓迎される花の一種といっていいでしょう。しかし、苦難の道を歩んだダンテは、この花を愛でることはなかったのかもしれません。

 ミモザ咲く道にダンテの影ひとつ

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写真 1、ミモザアカシアに見守られて登校する子どもたち 2、銀葉アカシアの花 3、散歩コースに咲いた楮の花 4、朝霧の調整池 5、同