小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1219 南米の旅―ハチドリ紀行(8) 胸を突かれた言葉

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「あんなに値引きをさせたら、かわいそうだ」。マチュピチュへの拠点の一つ、ウルバンバのホテルの玄関わきには、ウールのセーターをはじめとする毛製品や雑貨などさまざまなペルーの民芸品を売る女性が陣取っていた。泊り客の日本人を目当てに、ホテルの了解を得て店を広げているのだろう。その女性たちに対し日本人観光客がかなり激しく値引きを求める姿があり、私たちを迎えにきたガイドが冒頭の言葉をつぶやいたのだった。

 このガイドは山口県出身で、大学を出て大阪の会社で営業の仕事をしたあと、ペルーの古都クスコに住み着いて10年になる生粋の日本人である。ペルーの事情に詳しく、話も関西系らしくユーモアがあって面白い。南米に住んでいてもせっかちなのが愉快だった。日本人の女性と結婚し、最近男の子が生まれたばかりで、マチュピチュを中心に私たちに付き合う数日間、家に帰れず息子の顔を見ることができないのが寂しいと、子煩悩ぶりも隠さなかった。

 このところペルー経済は高い成長を続け、中南米の中では経済的に安定した国(年間の国民所得は一人当たり4200ドル、2009年)といわれている。貧困率も下がってきているが、山岳部や熱帯雨林地帯の人たちの生活は苦しく、都市部との貧富の差が大きいのが現状だ。 クスコの街でも民族衣装姿の女性たちが観光客相手に路上で土産物を売っていた。女性に混じって子どもの売り手もいた。

 彼女たち売り手は警察官の姿を見ると仕事をやめ、いなくなると売り込みを再開する。同じような土産物でも売り手によって値段が違い、当然値引き交渉が始まる。 ホテルの玄関わきには、早朝から土産物を売ろうと、女性2人が店を広げていた。当然のごとく、買う側は値引きを求める。一人の同行者がけっこうきつく値引きをしている様子を見ていたガイドが、「かわいそう」という感想を漏らした。

 現地のことに詳しいからこそ、懸命に編んだセーターなどを買いたたく同胞の姿を見て、売り手の女性に同情したのだろう。 ガイドブックには、ペルーでのショッピングのアドバイスとして「質のいいものを手に入れたいのならリマの土産物店がおすすめ、クスコなどはリマより割安だが、質にばらつきがある。交渉次第でかなり安く買えるのが魅力」(るるぶペルー編の要約)とあり、「交渉次第」という表現で値引き交渉にも触れている。

 海外での買い物の楽しみは、たしかに値段の交渉の面白さがあるようだ。しかし、それも度を超すのはどうかと思う。ガイドが見ていた同行者は売り手を困惑させる交渉をしていたのかもしれない。 昼食を予約していたクスコのレストランでは、私たちより先に予約なしで入った日本とは別のアジアからのグループが、店側が私たちのために用意した窓側の予約席に強引に座り込んでいるのを見かけた。

 店側の制止を聞き入れず、ガイドの「そこは予約席です」という説明にも耳をかさなかったそうだから、このグループの人たちの傲慢さには驚いた。 旅に出ると、ともすれば枠から外れた行動を取ってしまいがちだ。だが、それは(旅行者が経済的には豊かでも)文化のレベルが低いことを露呈したものであり、そうした外国人の行動を現地の人たちは長く記憶にとどめるに違いない。

 9回目はコチラから

 写真 1、クスコからウルバンバに向かう途中、北海道の富良野・美瑛と似た景色が広がっていた 2、ウルバンバの街並み 3、ウルバンバのホテルの中庭には色とりどりの花が咲いている 4、民芸品・雑貨が並んだマチュピチュの土産物店 5、民芸品も観光客には人気だ

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