小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1133 ベトナム・カンボジアの旅(7)完 理想と現実は違うのだ・メコンにて思う

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 メコン川チベット高原が源流で、中国の雲南省ミャンマーラオス国境―タイ・ラオス国境―ベトナムカンボジアを経て南シナ海へと抜ける全長4023キロに及ぶ大河だ。 以前、NHKが各国のこの流域に住む人たちを紹介する特集番組を制作したのを見て、メコンは漁業と農業を中心に、流域の人々に大きな恩恵を与えていることを知った。

 ベトナムホーチミンから約170キロのミトーに行き、メコンを見るクルーズ船に乗った。 メコンの川色は、茶色く濁っている。「清流」が多い日本の川とは様相が違うのはなぜなのだろう。「土の比重が軽いため川底まで沈殿しない、雨が土を洗い流すような激しい降り方をする(スコール)、蛇行する川は絶えず土を侵食する」―という要素が複合して独特の色を形成するのだそうだ。

 ホーチミンから大型の車でミトーに向かう途中、車が右折した際、交通警官が私たちの車を止め、書類を書いて運転手に署名させている。そこは右折禁止か右折車は一時停止をしなければならない場所なのだろう。車は一時停止せずに右折したから、どちらかの違反なのだろう。ガイドによれば、罰金は日本円で5000円程度だという。これは運転手の1カ月分の給料の3分の1にもなるというから、安くはない。

 このあとの運転に支障が出ることを心配した私たちは、ガイドの話を聞いて5000円を集めてカンパした。この金をニコニコしながら受け取った運転手が、その後安全運転をしたのは言うまでもない。 ガイドは、この国では警官は悪い奴が多いと嘆いていた。交通違反をしても金を払えば見逃してくれることが少なくないというのだ。

 中には庶民がなかなか買えない高級車を乗り回している警官もいる、警官の給料では車を買うなんてとてもできないと、ガイドは言う。さらに彼の話は続く「南ベトナム出身者は親から孫まで3世代、公務員にはなれない。北出身の公務員、たとえば学校の先生が南の人と結婚したら、その人は公務員を首になるのです」。

 真偽は分からないが、ベトナム戦争を勝ち抜いた北ベトナムの人たちが現在のベトナムでは力を持っているということなのだろう。明治維新後、薩摩(鹿児島)と長州(山口)出身者が幅を利かせ、かつて官軍と戦った地域の人たちは冷や飯を食ったが、同じようなことはどこにもあるもので、「勝てば官軍」なのである。

  ガイドは「共産党のスローガンは素晴らしい。だが、一つも実現していない」と話を進めたが、昨年3月、北京を訪れた際にも、案内してくれた男性ガイドも共産党を厳しく批判をしていたことを思い出した。「理想と現実は違う」ということを、資本主義国からやってきた私たちに言いたかったのだろう。巨大敷地にテーマパークをオープンしようと建設を始めた投資関係会社が、景気のかげりで建設を途中で断念したという場所もあった。むき出しのコンクリートが残っていて、その姿は無残に見えた。

 そうこうするうちにミト―に着くと、メコンクルーズの観光船が次々に出ていた。中国人、ヨーロッパ系、そして日本人と国際色豊かな顔ぶれがそれぞれの船に乗り込んでいく。約20分で果物の島、タイソン島に着く。蜂蜜の店、ココナツ・キャラメルの店、果物の試食、民族音楽の演奏、そして手漕ぎボートによるジャングルの小さな川下りが定番のコースらしい。ココナツ・キャラメルの店では、女性たちが手分けして働いているのに、主人らしき男性はハンモックに乗って昼寝を楽しんでいる。

 不思議な光景に思うのは、私が日本人だからだろうか。

 

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 写真 ミト―の観光船発着場 以下の写真 1、茶色く濁ったメコン川 2、果物の島・タイソン島 3、ココナツ・キャラメルの店で働く女性たち 4、ご主人はハンモックで一休み 5、民族音楽の歌い手は若い女性 6、手漕ぎボートは数も多い 7、河口に出たボート

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