小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1032 出会った人たちの言葉(2) 私たちが必要とされるのは

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(2006年12月―2007年12月)

  ▼廃寺の改修は事業の集大成

 西圓寺の改修は、私たちがこれまでやってきたさまざまな福祉事業の集大成だ。掘り当てた温泉は地域の人たちにも大いに利用してもらいたい。

(2006・12 石川県能美市社会福祉法人佛子園の雄谷良成理事長。廃寺を改修してデイケア施設にするユニークな事業に関して)

  ▼昭和の記憶を聞き書き

 このままでは昭和を生きた人たちの記憶が日々失われてしまうと思い北方領土の元島民の話を記録集にまとめた。祖母から体験談を聞きとったことがきっかけで、全国の高齢者を訪ねている。

(2007・1 NPO昭和の記憶の盛池雄歩代表)

  ▼だれかに必要とされる幸せ

 健康で、だれかに必要とされることが一番幸せ。これからもボランティア活動を続けたい。

(2007・1 スリランカで女性たちに洋裁を教えた、当時77歳の中城茂登子さん。シニアボランティアに関して)

  ▼身寄りのない人たちの支えに

 マザー・テレサがインドに開設した死を待つ人々のいえが原型だが、ここは命を生き抜く人の家でもある。高齢化社会が進行し独居老人が増える。身寄りがなく末期がんや白血病などで残された時間が少ない人を引き取る、このようなホスピスの必要性が高まるだろう。

(2007・2 東京・山谷でホスピスケアハウス・きぼうのいえを運営する山谷・すみだリバーサイド支援機構の山本雅基代表理事

  ▼悲しみと笑いが一対に

 人間の心の葛藤・悲しみを表現している能に対し、狂言は笑いやおかしな仕草を通じて人間の愚かさを示している。能と狂言は、この2つが一対になって650年間演じられてきた古典芸能だ。

(2007・3 狂言師で国の重要無形文化財、山本則俊さん。東京・杉並区の小学校でのワークショップで)

  ▼赤ひげ先生のような看護師

 これからの時代は、赤ひげ先生(山本周五郎の小説の主人公)のような市井の看護師が必要だ。看護の常識を超えるくらいの気持ちで仕事に取り組んでください。

(2007・3 富山市NPOこのゆびとーまれ理事長の惣万佳代子さん。ホスピスナース研修会で)

  ▼前半は中国人、後半は日本人として

 人生の前半は中国人、後半は日本人として生きてきた。帰国者二世として努力して医師の資格を取った。中国からの帰国者を応援する義務を感じる。中国からの帰国者にとって、日本は異文化社会だ。

(2007・5 元中国残留孤児や中国からの帰国者向けに中国語で医療情報を提供しているNPO中国語の医療ネットワーク理事長の石川宏医師)

  ▼地域で緩和ケアと向き合う

 ホスピス勤務時代、多くの人が亡くなるのを目にして壁に当たることが多かった。地域で緩和ケアの仕事を始め、遺族から最後まで無理なく家で過ごすことができたと感謝されたことが心に残っている。

(2007・9 仙台のNPO在宅緩和ケアセンター・虹の中山康子理事長)

  ▼子どもたちよ、このまま育って

 校長時代、校長室を開放したら子どもたちが部屋にやってきて絵を描いたり紙飛行機をつくったりと無心に遊んでいたことを忘れることができない。この子たちがこのまま育ったら、日本は心配ないと思った。

(2007・6 NPOアジア教育友好協会事務局長の遠藤正芳さん。三重県の小学校の民間校長を退職後、同協会の事務局長に)

  ▼鋭い子どもの観察力

 子どもたちの観察力は私たちよりもかなり鋭い。耳が不自由なためサイレントの世界に生きる子どもたちは発達した感覚と素直な目で大人を見ている。うそやごまかしを簡単に見抜いてしまう。

(2007・6 バイリンガルのろう学校設立準備会事務局長、玉田さとみさん)

  ▼自然なお産が育てる素直な心

 自然なお産が子どもの素直な心を育てる。陣痛促進剤の使用は問題で、帝王切開の割合が高くなっているのもおかしい。出産から退院までは母子同室の産院が理想だ。心を育てるためには母乳育児が重要だ。

(2007・7 慈しみ育児研究所の二村元夫所長。清泉女子大で開かれた親学会の定例会で)

  ▼ダイブで見たサンゴ礁の感動

 ダイビングが好きで沖縄に通った。この島の近くには島の人も知らないくらいたくさんのサンゴ礁があった。これを見た感動が研究所をスタートさせる原動力になった。フィールドが目の前にある研究所は世界でどこにもないだろう。

(2007・7 沖縄県阿嘉島の熱帯海洋生態研究振興財団の保坂三郎理事長)

  ▼根源的な生命力

 日本ではアートといえば堅苦しい感じがするが、クレアムという集団が活動しているベルギーでは身近な生活の中に入り込んでいる。彼らの作品は、理屈や既成概念とは無縁の根源的生命力にあふれている。

(2007・7 障害を持つ人たちの作品を展示するもうひとつの美術館を栃木県那珂川町で運営する梶原紀子さん)

  ▼異なる節回しが浪曲の魅力

 節回しが人によって違うのが浪曲の魅力だ。一生懸命になればなるほど、浪曲が難しくなってきたが、この芸能の火を絶やさないようにと思って取り組んでいる。

(2007・8 浪曲師の太田ももこさん。東京で開催のランチタイムコンサートで)

  ▼人をひきつけるアートを発見する醍醐味

 アウトサイダーアートは障害の有無に関係なく、作品そのもののエネルギー、人を惹きつける魅力がなければアートとしての評価は生まれない。特異な問題行動は、視点を変えるとアートになるかもしれない。それを発見するのが醍醐味の一つだ。

(2007・8 陶芸家の工藤和彦さん。旭川で障害者の作品を常設展示するボーダレス・アートギャラリーを開設して)

  ▼札幌近郊の山に植生の変化が

 最近、札幌近郊の山の植生に変化が起きている。藻岩山でも街路樹のニセアカシアが目立ち、放置したら森が荒れてしまう。倒木の伐採などの作業は冬でもできるし、会員の出席率は冬の方が高い。さすが道産子ですよ。

(2007・8 札幌近郊の森林の荒廃を防ぐために活動するNPO北海道森林ボランティア協会の高野豊さん)

  ▼フィリピンの若者に創意工夫を教えたい

 創意工夫という言葉が好きだ。日曜大工で何でも作り、若い人には日本のいい習慣であるラジオ体操を教えたい。(団塊の世代に対して)自分の人生なのだから、退職後も日々充実して生きてほしい。

(2007・10 シニアボランティアとしてフィリピンに派遣された根〆文雄さん)

  ▼奨学生に選ばれ変わった人生

 奨学生になって人生が大きく変わった。ケニアではろう教育が充実しておらず、奨学生に選ばれなかったら、あんな教育は受けられなかった。ギャローデット大学で学んだことをろう教育に生かしたい。

(2007・10 ケニアニクソン・カリキさん。世界聴覚障害者リーダーシッププログラム基金奨学生として米国のギャローデット大で学んだ)

  ▼世界一安全な国が危ない国に

 日本は世界一安全な国だったが、いまは世界一危ない国に近づいている。効率一辺倒で走ってきた後遺症だ。

(2007・11 福島県飯舘村菅野典雄村長。同村で開催された日本再発見塾のあいさつ。この3年半後、原発事故で飯舘村は全村避難)

  ▼危機を経験して人間は成長

 危機という言葉が好きだ。人生はさまざまな危機の連続だが、それによって人間として成長する。人が病気になるのは生きがいを喪失した結果だ。人生は生きがいを見つけることが大事なのだ。

(2007・11 死生学の研究で知られるアルフォンス・デーケン上智大名誉教授。千葉大のいのちを考える講座で)

  ▼女性への暴力は差別の一形態

 女性への暴力は差別の一形態で、人権問題としてとらえるべきだ。日本政府は日本の法制度で何が欠けているか考えるべきだ。

(2007・12 国際女性差別撤廃委員会のハンナ・ベアテ・ショップ-シリング博士。幕張メッセで開かれたDV根絶国際フォーラムで)

  ▼使い捨て文化の見直しを

 海洋の漂着ごみ問題は、プラスチック製品を中心にした使い捨て文化を見直しすることが解決につながる。製品に使用する材料の変更も大きな課題だ。メーカーは社会的責任を認識し、海洋ごみの回収と処理に協力し、リサイクル費用を負担する必要がある。

(2007・12 兼弘春之・東京海洋大学教授。海洋フォーラムで)

  ▼連絡船の魅力に惹きつけられて

 カメラマンとして青函連絡船が運航をやめる直前に、1週間かけて連絡船を取材し、写真集を出版した。これがきっかけで函館に移り住んで、会を立ち上げた。連絡船の魅力を後世に伝えたい。

(2007・12 NPO語り継ぐ青函連絡船の会の白井朝子さん)                              

                                  (続く)