小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

821 危機的状況で人間の本性が 原発事故をめぐる言動を注視

  東京電力福島第1原発1号機の海水注入が一時中断したといわれた問題の国会での質疑を「不毛の議論」だと、先日のブログに書いた。一刻も早く暴走する原発を制御し、避難している多くの住民に、家に帰ることができるという「希望」を与えることの方が今は優先課題だと思うからだ。

  案の定、きょうになって不毛の議論であることが裏付けられた。背景には現場責任者の独断の選択があったことを知った。

  報道によると、海水注入の経過は次の通りだ。

  東電は緊急停止した1号機で3月12日午後2時53分に原子炉圧力容器への淡水の注水が停止したため、海水注入の準備を始め、同7時4分ごろ、海水の注入を開始した。だが、同25分ごろ、官邸に派遣された武黒一郎元副社長から東電本店や発電所に「官邸では海水注入について首相の了解が得られていない」と連絡があり、本店と原発を結んだテレビ会議で注入停止を合意した。だが、第1原発吉田昌郎所長は「冷却を続けなければ、事故が拡大する恐れがあり、注水継続が重要」と判断。本店に知らせず、海水注入を続けたというのだ。

  東電は、一度7時25分に注入を停止、午後8時20分に再開したと発表している。この55分間の中断(実際には中断していなかったが)について、海水注入を知らなかった菅首相が激怒し、中止させたのではないという報道が流れ、国会でも谷垣自民党総裁が「首相の指示だったのではないか」と追及し、全面否定する首相との間で不毛の議論が交わされた。

  こんな経過から東電があらためて関係者から事情を聞いた結果、第一原発の吉田所長が本店の指示に従わずに、注水継続をしていたことを打ち明けたというのだ。

  一時中止報道に踊って、震災復興の議論より、この問題を優先して国会質問をした谷垣氏は「あまりの事実説明の迷走に開いた口がふさがらない」と語ったそうだ。一方、枝野官房長官も東電の発表に不快感を示したが、どっちもどっちという気がする。この問題は、経済産業省関係者から自民党の首相経験者に情報が行き、それがメディアに流れて国会で取り上げられたというから、みんなだまされていたわけだ。

  現場の吉田氏からすると、初めての緊急事態、修羅場で政府も東電首脳も信頼できず、独断で冷却を続けるため海水注入を継続したのだろう。東電は吉田所長の処分を検討しているというが、彼だけを人身御供にはできないだろう。結果として正しかったにしても、彼の行為自体はほめられることではないし、ヒーローのように報道する一部メデァイの扱いは行き過ぎだ。それにしても、政府、東電の原発をめぐる対応はひどすぎるし、原発事故を「政争の具」にしてしまった政界にもあきれるばかりだ。

  危機的状況で、人間は本性が表れるという。大震災、原発事故では多くの関係者の言動が話題になった。それらの言葉を私は忘れないることができない。原発事故で飯舘村の子どもたちは、慣れない村外の間借りした学校で授業を受けている。このような環境に追い込んだ大人の責任は大きく、子どもたちの姿に接した私は心が沈んだ。