小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

715 「ローマへの道」紀行(6) 青の洞窟探訪記

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 デンマーク童話作家アンデルセン出世作はイタリアを舞台にした恋愛小説「即興詩人」だ。その中にカプリ島の名所、青の洞窟が登場することは文学好きには常識のようだ。それにしても、人気がある場所だ。

 この洞窟は、石灰岩が波によって掘られた海蝕洞といわれ、入り口の穴の高さは約1メートル、中に入ると奥行きが54メートル、高さ15メートルという。この洞窟は海からしか入れない。中に入ることができるかどうかは波次第なのだが、うまく入ることができたのだから、運がよかったのだろう。

 天気はよく、空は快晴だ。それでも、中に入ることができるかどうかは微妙だという。ナポリから高速船に乗り45分でエメラルドグリーンの海が輝くカプリ島に着いた。さらにモーターボートに乗り換えて約10分、洞窟近くに到着する。同じような観光客2、30人を乗せたモーターボートやカップルを乗せたボートなど10隻近くが波に揺られて待っている。空は青いのに、波はやや高い。
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 近くの海を旋回したりしながら、次第に洞窟に近づく。そして1時間半待った。同じモーターボートに乗った2人の女性が船酔いになり、苦しみ出した。洞窟に入るには、モーターボートからさらに小さな手漕ぎのボートに乗り換える必要がある。その順番待ちに時間がかかるのだ。

 

 他のボートの客たちの様子を見ながら時間をつぶす。乗客たちはボートに近づいた小舟に乗り移ると、船頭は入口に張られた鎖を引いて洞窟に近づき、頭を下げて中へ入っていく。乗客は低い入り口で頭を打たないようにボートに仰向けになっている。以前、頭を上げた乗客が大けがをしたことがあるそうだから、みんな緊張した顔つきだ。ふと、入り口をもっと大きくしたらなんていう不心得なことを考えるが、中の光景が変わってしまうのでそれは無理なのだろう。画像

 ようやく順番が来て、ボートに乗り移る。船頭のほか4人が乗るが、全員当然のように仰向けになる。足を真っ直ぐに伸ばして、上を見ていると岩の壁を通り過ぎた。すると船頭が「きれい」と日本語で叫んだ。目を凝らすと、洞窟の水面は青白く輝いている。強い太陽光線が透明度の高い海水を通して洞窟内に入り込み、人々を引きつける現象を起こすのだ。

 近くの船から船頭が歌うイタリアの歌が聞こえてきた。写真を数枚撮る間に約3分が過ぎ、制限の時間だ。 待ち時間は1時間半、入ったのは3分というのは、まるで病院の診察風景のようなものだ。モーターボートに戻る際にチップで一人1ユーロを払う。後から戻ってきた組の中には、「スペシャル」といわれ、洞窟内を2周して倍の2ユーロを払った人もいた。私たちより少し早く現場に行ったモーターボートは、波が高くて洞窟に入れなかったというから、我慢して待っていた甲斐があったといっていい。

 地元にとって観光名所として大事な場所であるこの周辺では昨年8月、不法にタンク車から下水を流した下水処理会社の社員2人が逮捕されるという事件が起きたというから、不心得者はどこにでもいるものだと思う。

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