小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1678 絶望的状況の中でも タイの少年たちへ

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 タイ北部チェンライ郊外のタムルアンという洞窟でサッカーチームの少年12人とコーチ1人の計13人が不明になって2日で9日となる。昼夜を徹しても救助活動が続いているが、大量にたまった濁水で作業は難航しているという。このニュースを見て、2010年にチリで起きた鉱山の落盤事故を思い浮かべた。それは絶望的状況に置かれても、人間の強い生命力を示すものだった。  

 チリ北部のコピアポ近郊のサンホセ鉱山事故は、次のような経過をたどった。2010年8月5日、地下634メートルの坑道が、坑道入り口から5キロの地点で崩落、33人の男性鉱山作業員が閉じ込められた。救助作業の結果、18日目に作業員らの生存が確認され、69日後の10月13日に全員が救出された。それは奇跡のような救出劇だった。  

 この間、地下現場では現場監督をリーダーとして統制のとれた生活を続けた。限られた食料は配給制にして、落盤事故の再発に備えて交代で見張りを立て、約50平米を寝る場所、食事をする場所など3つの生活空間に仕切っていたという。9月7日に行われたサッカーの国際親善試合チリ対ウクライナ戦を、ファイバースコープを使った映像システムで33人に見せるという心のケアもあった。  

 タイの少年たちがどのような経緯で洞窟に入ったのかは分からない。新聞報道によると、少年たちは6月23日午後、洞窟に入ったが、大雨で水があふれてしまい、外に出ることができなくなったようだ。洞窟入り口から約5キロの空洞付近に避難している可能性があるという。タイの軍、警察と米英、日本、オーストラリア各国の探検家や農業灌漑専門家、ダイバーも参加し、現地では2000人近い態勢で救出作業に当たっている。少年たちが真っ暗な洞窟の中で、力を合わせて生き延び、救助を待っていることを信じたい。それはタイの人々共通の願いだろう。  

 10人以上の少年たちの遭難と聞いて、フランスの作家、ジュール・ヴェルヌの名作『十五少年漂流記』も思い出した。乗っていた船の原因不明の事故(後に一人の少年のいたずらが原因と判明する)でニュージーランドオークランドから見知らぬ島に漂着した少年たちの冒険の物語だ。ヴェルヌは個性的な15人(白人の子ども14人と黒人のボーイの少年)を登場させ、仲間との対立を乗り越え、いかにして無人島で生き抜き、ニュージーランドに生還したかを描いた。

「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」(パスカルの《パンセ》より)  

 追記 2日夜、洞窟内の水のない場所で座っている少年らをタイ海軍特殊部隊のダイバーが発見、全員無事だという発表があった。ただ、外に出るのはそう簡単ではなく、救出までまだ時間がかかるという。一刻も早い救出を願うばかりだ。

(さらに10日までに全員が洞窟から救出された。よかったと思う。だが、13人の救助に当たったダイバーの一人が亡くなったことを思うと気持ちは複雑だ)  

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写真 那覇市首里から見た夕陽と月