小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

655 署名にローマ字とは 首相の新聞広告

  楽天といえば、ネットショッピングなどインターネット総合サービス(扱う分野が幅広い)を提供するIT企業だ。三木谷浩社長が、記者会見で「英語を2012年中に社内の公用語にする」と発表したことが大きな話題になっている。

 「日本の会社がここまで来たか」という声や、「日本の会社なのに、公用語が日本語ではだめなのか」―など、さまざまな反応があるようだ。楽天の話題に続き、先日の朝刊に大きく掲載された菅直人首相名の民主党の広告には驚いた。

  東京では、朝日、毎日、読売、日経、東京5紙に一頁ぶち抜きの民主党の全面広告が出ていた。民主党に手厳しい姿勢を取り続けている産経にはない。「財政再建は未来へのチャレンジだ」と題する広告は、「誰も踏み込まなかった問題に、私は挑みます」という書き出しで、「債務残高はもうすぐ900兆円。収入以上の借金をつづけるこの国の運営は、どう考えてもおかしい」と続け、「ムダづかいの根絶、消費税を含めた税制の抜本的な改革。党派を超え、国民参加で議論を始めようではありませんか」と訴えている。

  広告の内容についての感想は別にして、それよりも菅首相が広告分の後にローマ字で署名していることに違和感を持った。目くじらを立てるほどのことはないかもしれない。でも、なぜという疑問が頭から離れないのだ。

  一面を使った広告は目に付き、朝刊を広げた私は寝ぼけ眼で全文を読んだ。そして、広告分に続くスタイルは「内閣総理大臣民主党代表 Naoto Kan 菅直人」となっており、ローマ字部分が菅首相の署名であることに気付いた。日本の首相なのだから、署名は漢字を使うべきだと思った。最後に活字で漢字が使われているから、署名はローマ字で考えたのだろうか。活字を省いて漢字の署名をすれば済むはずである。

  楽天以外でも、ユニクロを運営するフォーストリティリングも2012年3月から英語を社内公用語にすることを決めているという。民間企業なのだから勝手にやればいいのだが、一国の首相たるもの、自分の国の言葉をもっと大事にしてほしいと思う。広告分はコピーライターが書いたにしても、「無駄遣い」と書かずに「ムダづかい」としたことにも違和感を持った。

  文化審議会が、1981年に常用漢字表を定めてから29年ぶりに常用漢字表を改定し、196を追加し2136字となるというニュースが流れたばかりだ。常用漢字に対する議論が起きているときに、首相が署名にローマ字を使うのだから、どうも変だ。ローマ字の署名の方が格好いいと考えたのかもしれないが、日本の文化を大事にする姿勢に欠けているなと新聞をたたみながら思ったものだ。