小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

634 満開のニセアカシア 鳥取で自然を思う

画像 日本で言う白い花が咲く「アカシア」は、実は「ニセアカシア」のことである。本来のアカシアは、マメ科であり、「房アカシア」あるいは「銀葉アカシア=ミモザ」ともいい、私の好きな花の一つである。一方、ニセアカシアはハリエンジュ属なのだという。

 花の色は前者が黄色、後者は白色である。以前、住んだことがある札幌は、ちょうどいまごろが白い花が咲く「アカシアの季節」だった。 そのアカシアの季節を、今回旅をした鳥取市で味わった。

 鳥取は、私にとって日本最後に訪れた都道府県である。ことし2月に米子市に行き、全47都道府県踏破を実現したが、県庁所在地では鳥取市岐阜市が未踏の地なのである。 羽田から鳥取空港までは1時間15分とそう時間はかからない。携えた文庫本を読んでいたら、もう鳥取に着いた。空港ビルから駐車場の方を見ると、白い花が咲いている。それがニセアカシアだった。

 なぜ、鳥取にこの花があるのだろうと思った。調べてみると、空港からあまり遠くない「山陰国立公園」に指定されている「鳥取砂丘」を守るため、戦後クロマツニセアカシアを植えたのだという。それが空港周辺にも及んだのだろう。

画像

 研究者によれば、もともとニセアカシアは、クロマツの肥料木として植えられた。ところが、クロマツを凌駕し鳥取ではニセアカシアは珍しくない樹木になった。 それは札幌でも同じだった。鳥取以上に札幌の街中ではこの樹木が目につく。北米原産のこの樹木は1873年ごろに日本に入り、その数年後に東京・青山開拓使試験場から札幌に苗が移され、市内に街路樹として植えたのが、いまや札幌の5月を彩る樹木になっているのだ。

 街路樹として歓迎されたニセアカシアが、いつの間にか札幌近郊の藻岩をはじめとする山々に増え始めた。種が風や鳥たちに運ばれ、次第に広がったのだろう。 2004年に制定された「外来生物法あるいは特定外来生物被害防止法」とい長い名前の中で、ニセアカシアは「要注意外来生物リスト」の中の「別途総合的な検討を進める緑化植物」に指定された。 要注意樹木のブラックリストに入ってしまったのだ。

 札幌周辺では、ニセアカシアが藻岩山や札幌近郊の山に目立つようになり、藻岩山ではスキー場と反対 側の山肌の3分の1まで勢力を拡大した。 鳥取の実情は分からない。しかし、遠目に見ても白くて美しい花が、実は弱い在来種を駆逐してしまっているというから、自然界はまさしく「弱肉強食」の世界なのだ。