小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

532 漆の実のみのる国 「天地人」でにぎわう米沢

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 かつて仙台に住んだことがある。もちろ、隣県の山形県まで足を伸ばしたが、米沢と鶴岡には行く機会がなかった。先日2つの城下町に行くことになり、旅行バッグに藤沢周平の「花のあと」という文庫本を入れて新幹線に乗った。

 米沢はけっこう人が多かった。けっこうと書くのは失礼なのかもしれないが、地方に行くと、中核都市を除いてはどこも車が走っているのみで歩いている人の姿は少ない印象を受ける。「人影の少ない街」化してしまった感があるのだ。

 JR山形新幹線米沢駅に降りると、駅前にはタクシーがずらりと並んでいるが、利用者はあまりいない。どこにでもある昨今の日本の風景だ。 だが、テレビドラマ「天地人」のおかげで、直江兼続や上杉氏ゆかりの場所には、観光客の姿が目ついた。上杉神社や伝国の杜、上杉廟、兼続夫妻の墓がある春日山林泉寺などはウイークデーにもかかわらず、遠くから観光バスでやってきたツアー客でにぎわっていた。

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 いま米沢は「天地人」によって脚光を浴びているのだが、かつて藤沢周平米沢藩の第9代藩主だった上杉治憲(引退後は鷹山と名乗る)による藩政改革を描いた「漆の実のみのる国」という大作を書き、米沢藩の歴史に光を当てた。

 上杉博物館や文化施設がある伝国の杜周辺を歩くと「ウコギ」の垣根が目に入った。ウコギは古くから米沢では食用(てんぷらやおひたし)を兼ねた垣根として利用されたが、鷹山は貧窮にあえぐ領民に対しウコギの垣根づくりを奨励したことも小説に出てくる。

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 地元のそばやさんたちが出している「米沢そば街道」という小冊子に「観光米沢を考える」という文章が載っていた。冷静に観光米沢の姿を分析している。 「ことしは天地人の年で伝国の杜や上杉神社周辺は過去に例がないほどの賑わいを見せている。

 大河ドラマの威力はすごいと思う。逆に天地人がなければ、全くお寒いいつもの観光米沢になっていたかもしれない。米沢人は自発的にアピールしたり、アイデアを出すことはかなり苦手だが、このまま何もしないと、またお寒い観光米沢になるのは必至です。何かをしなければならない。そこで米沢駅や上杉公園、観光施設などで観光客を見かけたら、こんにちはと声をかけてみてはどうか」

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 東北の人は、心は温かいが、口は重くて見ず知らずの人に声をかけるのをためらってしまう。それをこの筆者は何とかしようと呼びかけているのだ。伝国の杜で会った地元の人も「来年が問題なんですよ」と、ため息をついていた。テレビのドラマが終われば確実に「天地人」ブームは去るだろう。そのあと米沢の人々は、歴史の街の魅力をアピールし、ことしに匹敵する観光客を集めことができるのだろうか。