小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

771 歴史は繰り返す エジプトとフィリピンと

  エジプトのムバラク大統領が次の(9月)大統領選への出馬を見送り、事実上退陣を表明したというニュースを見て、同じように長期独裁政権を続けたフィリピンのマルコス大統領が1986年の人民革命で失脚、国外に亡命した事件を思い出した。

  客観的に見て、傑出した人物でも長い間権力を維持していると、腐敗が必ず生じ、国民の間に不満がたまることは歴史的事実である。

  23年にわたって大統領の椅子に座っていたチュニジアのベンアリ大統領が国民のデモ拡大によりサウジアラビアに亡命、その余波は周辺諸国に拡大し、30年(正確には今年10月で30年)という長期政権を続けたムバラク氏が最大の危機を迎えている。

  マルコス氏が米軍のヘリコプターでフィリピンから脱出、ハワイに亡命したニュースは、当時日本国内でも連日トップニュースとして報道された。家庭では「イメルダ夫人が政治にくちばしを入れたのが悪い」とか「大統領の立場を利用して相当蓄財をした」などお茶のみ話の格好の材料になった。

  エジプトでデモを続ける市民たちは「9月の大統領選まで待たずにすぐにやめろ」と主張する。9月までムバラク氏が大統領職を続けると、巻き返しをするのではないかという懸念があるからだろうか。

  一方、冷めた見方として、こうした市民たちの「民主主義」への思いは空振りして「イスラム原理主義」へと向かうのではないかという指摘もある。

  フィリピンに話を戻すと、マルコス氏を追放した後、2007年にはゴールドマン・サックス証券による経済発展が期待される11の新興経済発展国家群「NEXT11にも指定されている。だが、農村部の生活は貧しくマニラ市内でも路上生活の子供たち(ストリートチルドレン)の姿が見られるのだ。

  エジプトの大統領として記憶にあるのはナセル大統領だ。こんな格言があった。「成せばなる、成さねばならぬ何事も、ナセルはアラブの大統領」。米沢藩の名君、上杉鷹山が「なせば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」という言葉を残しているが、これにナセルを掛け合わせたジョークのようだ。さて、ムバラク氏は何をなすのか。