小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

508 ボランティアの年輪 8月の終わりに

 8月31日。外は強い雨が降っている。きのう選挙が終わった日本の政治の未来を予感するような(杞憂であってほしい)、そんな8月の終わりである。米国の政治学者は、今後の日本の政治について「不確実な時代がきた」と分析している。「自公」の惨敗ぶりを見ていて「驕れるもの久しからず」という言葉を思い出した。圧勝した民主党でさえ舵取りを誤れば、近い将来、野党に逆戻りすることもあり得るのだ。

  8月。印象に残る2人のボランティアに会った。日本の戦後の経済高度成長時代を背景に生きた2人だが、互いに異なる道を歩んで現在はともにボランティアとして動いている。Aさんはこんぶを養殖して「海の森」をつくろうという運動をしている。父親を早くに亡くしたAさんは、大学進学のために北海道の炭鉱で働き、学資を稼いだ。予備校では最低点しか取れなかったAさんはその後、北海道大学水産学部を卒業して鹿児島大学水産学部の教授になる。学力をつけるために予備校で朝から夜まで頑張ったというAさんの話を聞いていると、人間には逆境にあってもものごとをやり遂げる底力があるのだと痛感する。

  Bさんは、公務員をやめた後、不動産鑑定の会社を経営する。その会社は20年以上続き、バブル経済の崩壊も乗り切るが、事業拡大を図ったことが裏目に出て会社は倒産する。うつ病になったBさんは、自殺の誘惑に駆られながら何とか踏みとどまり、自分の経験を生かして、中小企業経営者の自殺防止のための相談を受ける「蜘蛛の糸」というNPOを秋田で立ち上げる。

  秋田は自殺率が全国で一番というワースト記録が続いていて、Bさんへの相談も後を絶たない。個人情報を守るために、相談者のことには触れないが、Bさんのブログ「地方経済の光と影」にはいくつか話が載っている。「人をだます常習犯の女性」や「タラバガニを土産に北海道からやってきた認知症の女性」の話など、内容は暗い。しかし一話一話にユーモアと一筋の光明があり、Bさんの人柄が伝わってくる。

  AさんとBさんは、学問と実業の世界という違いがあるにしても、現在は生きてきた道の延長線上でボランティアとして活動をしている。2人の顔からはそれぞれの人生の年輪を感じ取る。選挙で当選しバンザイをした「小沢チルドレン」といわれる人たちにも、いつかは2人のような雰囲気を持ち、自分のことよりも国民を最優先に考える高い志を持ち続ける政治家になってほしいと願わずにはいられない。