小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

475 1人で便所飯とは 孤独を好む時代?

  朝日新聞の7月6日夕刊一面トップに「友達いなくて便所飯?」という記事が載った。東大や名城大(愛知県)など、幾つかの大学にトイレの中で食事をするのを禁止するという注意書きが掲示されたというのだ。

  張り紙にはウサギと洋式トイレのイラストが書かれ、料理の写真に大きな×印があり「監視カメラ作動中」「違反者にはトイレ使用禁止などの処分を行います」と大学の名前も記されていたという。

  この記事は「1人で食べる姿を見られたくない」というサブ見出しがあり、孤独な大学生がトイレに入って食事をしている姿を想像させる。記事は「若者の間に便所飯は広がっている。学食などで1人で食べている姿を見られ、友達がいない人という烙印を押されたくないのが動機だ」と書いている。

  これが一面トップのニュースなのだろうか。しかも、伝聞に基づく記事で、張り紙自体もイタズラ説が強い。しかしだれにも迷惑がかからず、現代社会の混迷ぶりを示す意味では格好の話題だ。だから、この記者はこの胡散臭い話に飛びつき、デスクも整理も乗ってしまったのだろう。

  かつて、たしかに「便所飯」という言葉があった。日本の軍隊でいじめ続けられる新兵さんが、泣きながら便所で握り飯を食べるシーンを映画で見たことがある。

  普通の感覚では便所、トイレは臭いところであり、物を食べる場所ではない。しかし、この狭い空間は実はだれにも束縛されない貴重な空間であることも間違いがない。臭気を忘れ、自分の時間に浸ることができたのかもしれない。

  朝日の記事は軍隊の話とは違う。これからの日本を支える若者が学ぶ大学のことである。記事を信用すれば、孤独な若者が増えているのだろうか。

  何もトイレで物を食べなくとも、同級生に見られない場所はいくらでもあるはずだ。そこまで、現代の若者は追い詰められているのだろうか。誤報であってほしい記事だ。