小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1045 霧の朝に咲いた皇帝ダリア そんな朝の暴走老人の話

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 このところ朝の冷え込みが増し、散歩コースの調整池周辺は霧が立ち込めることが少なくない。秋から冬へと季節が移っているのだ。立冬が過ぎたのだから、当然と言えば当然だ。

 池の背後にある小さな雑木林も緑の葉が次第に赤へと変化し、鮮やかさを増している。遊歩道のけやきも色付きき、落ち葉が目立つようになった。老若男女が早朝の散歩を楽しみ、ジョギングに汗を流す老人もいる。庭に植えた皇帝ダリアと皇帝ヒマワリの花も、競うように開花した。

 そんな朝、テレビでは東京都知事を突然やめた石原慎太郎氏が新党「太陽の党」を結成したことに関する記者会見で「暴走老人の石原慎太郎です」と自己紹介しているのを放映しているのが目に入った。散歩の途中、池周辺の霧は晴れてきた。だが、老人たちの頭を混乱させる濃い霧がこの国を覆っているのかもしれないと、思った。

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 この言葉を流行させたのは、芥川賞作家の藤原智美である。孤独な老人がキレた末に、暴力を振るう。中には殺人事件にまで発展するケースが増えつつあり、藤原は2007年にこれらの「新老人」たちがなぜ事件を起こすのか丹念に取材し、「暴走老人!」という本を出版した。先月には東京都世田谷区で86歳の元警察官が62歳の隣家の女性を刺殺したあと自殺するという陰惨な事件があり、暴走老人という言葉が頭から離れなかった。

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 そんな中で石原氏が都知事をやめたことについて、お騒がせ国会議員・田中真紀子文科相が「暴走老人で大変だ」という感想を漏らした。石原氏は1932年9月30日生まれだから、満80歳になる。101歳で現役を続けている聖路加国際病院日野原重明さんに比べたらまだ若いとはいえ、とうに引退していい年齢だ。

 そんなことを承知の上で彼は田中文科相の言葉をわざと引用して「暴走老人」とあいさつしたのだろう。その田中文科相が、石原氏の知事辞任直後に大学の新設問題でひと悶着を起こし、「暴走大臣」というあだ名がついたのだから皮肉としか言いようがない。田中文科相は現在68歳。彼女も堂々たる「新老人」の一人といえる。

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 一方で、スポーツ界では高齢になっても爽やかさを発揮している選手がいる。ことし夏のロンドン五輪馬術競技に71歳で出場した法華津寛選手を覚えている人は多いだろう。この年齢まで第一線で活躍できたのだから驚きだった。ゴルフの青木功選手もことし70歳になった。彼は「生涯現役」を自称し、シニアツアーへの出場を続け、練達した技術に裏打ちされた話も面白い。そんな2人に比べると石原氏から清新さは全く感じられず、彼の行動がうまくいくとはとても思えない。

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 こうまで書いてきて、ことし3月に旅行した北京で見た老人たちの姿を思い出した。世界遺産にもなっている天壇公園では、お年寄りたちが集まってコーラスやダンス、囲碁に興じ、北京動物園では望遠レンズのついたカメラを構えた多くの老人たちが池の水鳥を撮影していた。あの人たちが、尖閣をめぐる反日騒動で若者たちに交じって暴走老人になったかどうかは分からない。

 写真 1、赤く色づき始めた小さな雑木林。赤いとんがり屋根は小学校 2、池からは朝霧が… 3、遊歩道のけやきも落葉が始まった 4、ようやく咲き出した皇帝ヒマワリ 5、こちらはよく見る皇帝ダリア