小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

445 剛腕政治家との決別

  小沢一郎氏が民主党代表を辞任することを発表する記者会見をテレビで見て、ああこの人は自分の生き方を改めようという意識はないなと思った。この段階でやめるのは選挙で勝ち、さらに近い将来の復権を目指したからなのだろうか。作った笑顔の裏に何かがあるなと感じたのは私だけではないだろう。

  小沢氏は検察に狙われ続けた。その結果、秘書の政治資金規正法違反という「形式犯」の罪で、総理の椅子を狙える野党第一党の党首の座を降りざるを得なかった。その政治手法は戦後の自民党政治をカネで動かした田中角栄金丸信流を踏襲するものだった。それゆえに、検察のターゲットになったのかもしれない。

  小沢氏は「剛腕」といわれ、リーダーシップには定評があった。しかし、この尊称の反対に恫喝政治という言葉も彼には当てはまるようだ。。辞任を報告する国会議員の会で批判的な民主党の面々を呼び捨てにして、怒鳴りつけたというのだ。これは普通の感覚ではない。

  かつて政財官界を巻き込んだリクルート事件があった。当時の竹下首相が辞任し「検察恐るべし」を印象付けた事件だった。当時、小沢氏もターゲットの対象になったという情報があった。これに関してあるメディアにいる知人の話を聞いたことがある。

 「検察が小沢氏を捜査対象にした」という情報で、知人のメディアの社会部は動いた。政治部の協力は得られない。独自に小沢氏の行動を探った。リクルート事件捜査渦中、政財官界のかなりの人たちが自宅に帰らなかった。メディアの取材を避けるために、ホテルなどに身を寄せたらしい。

  小沢氏も自宅にはいない。しかしあらゆる手段で居場所を突き止めた。検察が動く前に様子を見てみようと知人の取材班は判断した。早朝の5時、ホテルの部屋の前に着いた若い記者は、いきなりその部屋のベルを鳴らした。

  すると、ホテルの部屋着姿の氏がドアを開け、大きな声で怒鳴ったという。「どこの社だ。何も話すことはないぞ」その剣幕はものすごく、物に動じない記者も「おはようございます」と言っただけで逃げるようにその場を去った。

  この記者は、デスクから「何をやっているんだ。だれがベルを押せと指示しかた」と、叱られたそうだ。取材班は、小沢氏の動向をじっくりみようという方針だったのだ。それが地方から応援にきた若い記者には不徹底だったうようだ。結局、小沢氏はこの事件の関与が認められなかった。検察は捜査対象にしたかどうかも明らかにしなかった。

  今回の小沢氏の秘書への強制捜査に対し「国策捜査」という批判が根強い。実は、それよりも検察の執念を感じたものだ。検察はしつこく、敵に回したら手ごわいと政治家は思ったことだろう。

  さらに小沢氏流のカネ集めにたけた政治手法が行き詰まったことを政治家は反省すべきだろう。後任の民主党党首の座を争うのは鳩山、岡田の元代表2人だ。小沢氏に比べ、2人ともソフトである。彼らが小沢氏の影響をはねのけることができなければ、民主党にあまり期待はできない。