小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

386 一流の島人(しまんちゅう)になりたい

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 沖縄在住の平田大一さんの「南風(バイカジ)・海風(ウミカジ)に吹かれて」(かんき出版)という本を読んだ。平田さんは、テレビドラマ「ちゅらさん」で有名になった小浜島の出身で、東京の大学を卒業後、沖縄に戻り「島おこし」のためさまざまな活動をする。 この本には「一流の島人になりたい」という平田さんの沖縄にかける思いが凝縮されている。

 地元の月刊誌に11年間(27歳から38歳まで)にわたって連載した短文をまとめたエッセー集で、一つ一つの文章に平田さんの人間味が出ていて楽しく読める。 例えば「Gパンをはいて畑に出よう」では、平田さんがGパン姿で畑に行ったら、島のベテラン農家に「おままごとならやめろー」と笑われたことを書いている。

 島ではGパンはいっちょうら(よそ行きの洋服)であり、小浜から石垣島那覇に出るときでないとはかない人も多いのだそうだ。 平田さんは父親を誇りにしていたことがうかがわれるエッセーもある。「心の錆の落とし方」で平田さんは「農業の天才、人生の達人」と父親を書いている。砂糖キビの葉が赤茶け、やせ細っていく奇病が流行った。父親に相談すると「あれは錆病だから気にせんでいい。

 人間でいえば神経症だな。子どもが親の気を引くためにするかまって病みたいなものだ。たくさんかまってあげているうちの畑は絶対に大丈夫だ」との答え。 薬をまかなくていいのかとさらに聞くと「何もまかなくていい。ただキビとキビの間のうねを行って帰ってくるだけでいい。それで錆の粉は飛んで落ちる。

 この病にはそれが一番の良薬だ。人間も砂糖キビも大切なのはコミュニケーション、心の触れ合いだな」と言って笑ったそうだ。 本の後ろにある経歴によると、沖縄に戻った平田さんは楽曲・詩の創作活動のほか、サトウキビの収穫を助ける「キビ刈り援農塾」を運営。さらに勝連町(現在のうるま市)の世界遺産、勝連城の最後の城主阿麻和利(あまわり)を題材にした子どもたちの組踊りの演出、脚本も手がけた。

 那覇市芸術監督や国立劇場おきなわ運営財団企画制作専門委員なども務め、幅広く地域の青少年育成の活動をしている。 しかし、平田さんは「ぼくのシゴト 本業は島人」で書いている。「何をやっても副業のような気がする」と。平田さんが目指すのは、毎日畑に通うことを当たり前のように自分の仕事と決めて、一生を小浜島で生きて島の土になった父のように「島人としての生き方を本業にする」ことなのだという。

 そして「一流の島人」になることが夢なのだそうだ。 2月初め沖縄に行き、沖縄の伝統芸能「組踊」を現代風にアレンジした平田さん演出の「肝高の阿麻和利」の舞台稽古を見る予定だ。うるま市の中高校生が演じる舞台であり、その舞台稽古からは平田さんの夢が伝わってくるはずだ。