小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

345 中国の旅(1)鑑真の故郷へ

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「中国は霞みに覆われた大国なのか」。中国を久しぶりに旅して、空気の汚れに驚いた。北京五輪の時にも、スモッグが多いことを理由に有名マラソン選手がボイコットしたことで、そのひどさは頭では知っていたが、実際に中国に足を踏み入れると、それを実感した。

 上海からバスに乗って、一路江蘇省揚州市に向かう。そこは、唐招提寺の鑑真和上の故郷だ。 上海の街は、どこまでも霞みがかかっていた。薄日は差しているが、青い空は見えない。大河、揚子江を越える。いつの間にか、巨大ビル群は消え、黄金色の稲穂の波がどこまでも続く。その中に白いそば畑も混じっている。

 中国も主要都市間は高速道路網が発達し、バスは渋滞とは縁がないままに揚州に向け走り続ける。 約3時間半で揚州に着いた。「田舎町」を想像していたが、高層ビルも車も多い、にぎやかな都市だった。鑑真と聞いて、揚州を思い浮かべる人は、相当仏教に詳しい人だと思う。

 この町には、鑑真ゆかりの大明寺があり、この寺が運営する仏教大学「鑑真学院」があるのだ。しかも、小説「紅楼夢」は、この町が舞台なのだという。 大明寺と鑑真学院は、観光地として知られる痩西湖から少し上った丘にあるが、揚州自体はほとんどが平坦な街並みが続いている。それでも自転車にバッテリーがついた「電動自転車」に乗った人が目についた。車には手が出ないが、自転車よりは楽だというので、人気があるようだ。

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 大明寺に行く。鑑真が住職を務めたことがある寺だ。鑑真和上の坐像が唐招提寺から一時里帰りしたこともあり、多くの拝観者もやってきたという。 いま本物と全く同じ模像が記念堂に飾られている。拝観者も少なく、ブームは去ったようだ。しかし、鑑真学院には日本からの留学生もおり、鑑真の世界を求めてこの寺にやってくる日本人は後を絶たない。

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紅楼夢」中に登場する料理を改良したといわれる「紅楼宴」という宴会に参加する機会があった。グルメではないので、料理の名前を一々覚えていないし、味もよく分からない。

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 しかし、料理を並べたテーブルを飾る細工を見ただけでも、この宴会の豪華さが想像できるだろう。痩西湖で船に乗り、のんびりとした時間を送り、紅楼宴を体験すれば、紅楼夢を理解できると思った。それは、仏の道を一途に探求し、日本にまで渡った鑑真の姿とはかけ離れているものだ。揚州は、豪華さと質素さが同居した街なのである。