小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

341 うれしい人々 ノーベル賞の4人の研究者

  なぜなのか分からないが、連続してノーベル賞の物理学賞、化学賞が日本人研究者4人に贈られることが決まった。その1人、益川敏英さん(68)のユニークさについうれしくなった。こんな頑固で気骨のある人がまだいたのかと思う。小林誠さん(64)も魅力がある。

  それにしても、益川さんと同時受賞が決まった南部陽一郎さん(87)といい、化学賞の下村脩さん(80)といい、高齢な人たちが受賞することになったのは、高齢化社会を反映しているようだ。

  ことし7月に66歳で亡くなった戸塚洋二東大特別栄誉教授は、ノーベル賞の有力候補と言われていた。もし戸塚さんが生きていれば、物理学賞は4人が一緒に受けたかもしれない。戸塚さんは、南部さんと同じく、なぞの素粒子ニュートリノに質量があるという研究成果を残したからだ。

  さて、益川さんである。テレビのインタビューを見て非常に率直な人柄と感じた。物理学者でありながら、海外には出たことはないし、英語は話さない。(しゃべれないのかどうか私は知らない)ノーベル賞の授賞式で受賞のスピーチを英語で話せと言われたら「その場合は、ノーベル賞を辞退します」ときっぱりと言うのだ。さらに受賞理由の「クォークは6種類」という理論を思いついたのは、「風呂の浴槽をまたぐときだった」と説明した。

  けっこう味のある益川さんが南部さんの話になると、涙ぐんだのを見て、この人は「純情なんだ」と率直に思った。益川さんによると、南部さんは益川さんや小林さんにとっては、雲の上のような存在で、南部論文を「しゃぶりつくした」のだそうだ。

  一方の小林さんも素敵な人だ。学者として、研究一筋の道を歩んだ。だから、奥さんともに海外旅行をしたことはないという。だから、今度の授賞式は小林夫妻としては初めての海外旅行なのだ。

  いま、「グローバル化」という言葉が全盛だ。しかし、益川さんと小林さんの生き方は、そんな流行語とは無縁だった。それに比べ、南部さんと化学賞の下村さんはともに米国に在住している。生き方は違っているかもしれない。だが、4人に共通するのは、真理に対す一途な探究心ではないだろうか。