小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

219 鮫島有美子の四季 心やすらぐ時間

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 札幌の中島公園の中に「札幌コンサートホールキタラ」がある。春夏秋冬、このホールで聴くクラシックは、日本中のどこよりもいい。 ホールの音響のよさはもちろんだが、ホール周辺の環境がどこにも負けないからだ。雪化粧の冬がいい。好きな音楽を聴いて、雪の道を歩くことは、寒さを忘れるほど幸せに感じる時間だ。

 キタラでソプラノ歌手、鮫島有美子のコンサートを聴いたのは、もう6、7年前のことだ。体調が微妙におかしくなっていた。 時折耳鳴りがして気持ちが安定しない。漢方薬を飲み、何ヵ所かの病院にも行った。精密検査でも異常はないとの診断だった。しかし耳鳴りはやまない。

 高橋真梨子のコンサートは、彼女の歌は別にしてバックの演奏に耳鳴りが共鳴したようで、チケットをようやく手に入れたというのに、コンサートを楽しむ余裕は全くなかった。だから、半ば恐れながらキタラに向かった。 不思議なことに、鮫島の歌は耳鳴りを発生させなかった。静かな語りと心に響くソプラノ。耳鳴りから解放された時間を送った。コンサートが終わり、外に出ると雪が舞っている。私の足取りは軽い。

 鮫島有美子は日本でCDデビューした直後から、自然な歌唱が気に入りCDを買い、コンサートに足を運んだ。札幌に住んだ時代には、私的な席で一緒になり、話を聞いたことがある。自分を飾らない率直な女性という印象を持った。

鮫島有美子の四季」という4枚組のCDがデビュー20周年記念として発売され、早速購入した。79曲の抒情歌集である。彼女はデビュー以来、日本語の言葉とメロディの美しさを再発見した歌い手といわれ、多くのファンを持つ。専門はオペラなのだが、私には日本の歌の方がなじみがある。

「四季」には、春から冬までの季節の歌がほとんど収録されている。最近の私は彼女のCDをかけ、時間を送るのが夜の習慣になった。さすがに春と夏の2枚をセットすることはない。季節に合わせ、秋と冬の2枚を本を読みながら交互に聴く。それはささやかながら「至福の時」ともいえるのだ。