小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

99 有田にて 喫茶店の美しいカップ

画像

 佐賀県有田町は全国でも有名な焼物の町である。有田焼(伊万里焼ともいうそうだ)を有名にした陶工「酒井田柿右衛門」は焼物の世界では神様的な存在だ。 以前、友人からある祝いに有田焼のコーヒーカップをもらった。繊細な絵柄のカップは、私には使うのがもったいなくて、ほとんど使わず飾ってある。

 所用があって、最近有田から伊万里まで足を伸ばした。目的が違ったので、ただ通りすぎるだけの旅だった。連休に開かれる陶器市では、人であふれかえるというが、駅前の通りは閑散としていた。

画像

 電車の時間待ちにJR有田駅前の喫茶店に入った。そこで飲んだコーヒーの味は格別だった。というよりコーヒーカップに感心した。写真がそのカップである。一つはブドウの柄だ。小さな喫茶店で、店内には売り物のカップや花瓶類も並んでいる。コーヒーを飲んで、店の女性に「いい器を使っていますね」と声をかけた。 その返事は「いいえ、ここらでは普通です」。

 さすが、有田の喫茶店だ。いいものを使っているにもかかわらず、「普通」だと謙遜しているのだろうか。あるいは、私の見る目がなく、普通の器なのだろうか。やはり前者に違いないと思う。 焼物の町の喫茶店が、安っぽい器を使っていては興ざめだ。その意味で、点数をつければこの喫茶店は合格だ。 毎年、連休には茨城県笠間市に行く。笠間焼で知られる焼物の町だ。

 意欲に燃えた若い陶工が集まり、けっこういい作品が見られる。かつて北大路魯山人が住んだ古民家もある。ここもふだんは落ち着いた街だ。喫茶店に入ると、美しい器でうまいコーヒーを飲ませてくれる。 それは、日本に住むわれわれのささやかなぜいたくなのだと思う。もちろん、連休には笠間に行く。そして有田、伊万里は再訪したい町の一つである。