小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

734 静かな時間を楽しむ 映画・マザーウォーター

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 映画を見る楽しみは何だろう。手に汗を握ったり、つい泣いてしまったり、何が何だか分からないまま終わってみたりと、これまでさまざまな映画を見た。 映画名の「マザーウォーター」は、ウイスキーの仕込み水(ウイスキーをつくる時に使用し、麦を発芽させる際や糖化・発酵、加水などの工程で使われるという)のことだという。

 水に関係の深い仕事をする女性たちが中心をなし、京都が舞台なのに観光名所が出てこない静謐な映画である。 主要な人物はウイスキーしか出さないバーを経営するセツコ(小林聡美)、同じ味のコーヒーは2度と出せないと話す小さな喫茶店のタカコ(小泉今日子)、一人で豆腐店を営むハツミ(市川実日子)、散歩が趣味の初老のマコト(もたいまさこ)の女性4人。

 男性は銭湯の主人オトメ(光石研)、そこで働くジイ(永山絢斗)、木工所で働くヤマハ加瀬亮)、と、赤ん坊のポプラの4人。 京都が舞台なのに、なぜかこの人たちは京都弁を話さない。違う町からここにたどり着いたのだろうか。

 その日常は平凡だが、豊かに見える。朝、ハツミの店で豆腐を食べ、昼、タカコのコーヒーを飲み、夜はセツコの出してくれたウイスキーの水割でセツコとの会話を楽しむ。もちろん午後の早い時間に銭湯に行き、ポプラの寝顔を見る。こんな生活ができたら最高だ。

 みんないい味を出している。豆腐を作るために豆を洗うハツミ、コーヒー入れるタカコ、水割りの氷を丁寧にかき混ぜるセツコ。質素な食事を楽しむマコト・・・。あまりかわいいとは思えないポプラもいい。ポプラ以外のオトメ、ジン、ヤマハもいい人たちだ。 女性監督(松本佳奈)らしく、隅々まで丁寧につくられた映画だ。映画館を出るとき、マコトが汲みにいく天然の水を飲みたいと思った。