小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

899 野球に夢を見ることができるのか 映画「マネーボール」

画像プロ野球・巨人の球団人事をめぐって、清武英利球団代表兼GMと読売新聞グループ本社会長・主筆渡辺恒雄氏の確執が話題になっている。人気球団の内紛だけに、注目が集まったのだろう。そんな騒ぎのときに、大リーグ・オークランド・アスレチックスの実在のGMを扱った「マネーボール」という映画が日本でも公開になった。 ブラッド・ピットが演じるアスレチックスのGM・ビリー・ビーンが、徹底したデータを駆使した選手評価とマネーボールという野球理論を採用して弱小球団を強力チームに変貌させるストーリーだ。その中で「人は野球に夢を見る」という言葉が出てくる。野球というゲームは本来そうなのだ。しかし、巨人の今の姿に夢を求めることはできない。 この映画は、ベストセラーになった「マネーボール・奇跡のチームをつくった男」(マイケル・ルイス著)という本が原作だ。2002年、弱小チームだったアスレチックスはシーズン途中から勝ち続け、20連勝という記録をつくる。 ビリーGMはハーバード出の統計専門家ポール・デポデスタ(アスレチックスの後、ドジャースのGMを務めた。映画ではジョナ・ヒルがピーター・ブランドという名前の太めのコンピュータオタク的な役を好演)の意見を入れ、セイバーメトリクスという統計学的見地からデータを客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法を駆使する。 さらに①打率、長打率よりも、出塁率を重視する②打者の能力を評価するのに、打点には意味がない③選手の将来性には期待を抱かず、高校生は獲得しない④被安打は投手の責任ではない⑤勝ち星も防御率も投手の能力とは関係ない―という独特の理論を掲げてチーム作りをする。 その結果、シーズン途中から快進撃が始まり、大リーグ記録の20連勝もしてしまう。金のないチームをどうしたら勝つチームに変えることができるか。それがマネーボールという苦肉の策だった。 データを重視する手法は、その後ヤンキースなど金持ち球団も採用した。さらにスカウトによる選手獲得にも力を入れているというから、アスレチックのような金のない球団は、やはり苦しい。今シーズンは下り坂の松井秀喜を獲得したが、うまくいかなかった。 日本でも、楽天の前監督・野村克也氏のデータを重視した野球は有名だった。しかも、他の球団を追われた選手を立ち直らせ、野村再生工場ともいわれた。球団運営は、素人目で見ても難しい。かつての常勝軍団・巨人は昔日の勢いはなく、昨シーズン日本一になったロッテは今シーズンパリーグの最下位だった。セリーグで優勝した中日(日本シリーズソフトバンクと拮抗した戦いをしているが)の落合博満監督は、今シーズン限りで退任する。後任が決まっているので、日本一になってもそれが覆ることはない。 巨人の内紛の行方はどうなるかは分からないが、渡辺氏の球界のオーナー然とした振る舞いは不快でたまらない。震災後の開幕時期をめぐる発言、今回の横浜の譲渡問題での言動を見ていて、多くの人はもう引退をした方がいいのではないかと思ったのではないか。2004年のプロ野球再編問題最中に発覚した明治大学一場靖弘投手への裏金問題で巨人のオーナーを辞任したというのに、85歳の渡辺氏はそれを忘れてしまったのだろうか。 それにしてもプロ球団のGMは責任が重いし、ストレスもたまるだろう。ウィキペディアを見ていたらこんなことが書いてあった。「GMは、欧米の特にアメリカのプロスポーツでは重要な役職であり、チームの戦力の1つとされる。チームのほとんどの権限はGMが有し、チームの編成や方針の決定、選手や代理人との契約交渉、トレードやドラフトなどの新人獲得のとき誰を獲得するか、あるいは放出するか、誰をマイナーリーグなどの下部組織から昇格させるかなど多岐にわたる。それらを球団オーナーから用意された予算の範囲内でこなしてゆく。監督はGMの決めた方針を忠実に実行する中間管理職に過ぎない。GMが有能であるか否かがチームの戦力を大きく左右するため、有能なGMは別のチームに引き抜かれることもしばしばある」と。 現在の巨人に、この概念は当てはまらない。