小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

458 庄司紗矢香さんの世界 一芸に秀でれば

画像
ピアノの天才のことを昨日書いた。辻井伸行さんのことだ。日本にはピアノだけでなく、ヴァイオリンでも天才がいるのは多くの人が知っている。 16歳のときパガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで優勝した庄司紗矢香さんだ。史上最年少だった。その庄司さんが絵を描くとは知らなかった。知人から庄司さんが個展を開いたと聞いて、驚きながら半信半疑で東京・京橋の画廊へ向かった。 ビルの2階の小さな部屋だった。そこに、庄司さんの描いた音の心象風景の世界が広がっていた。部屋に一歩足を踏み入れて、「一芸に秀でれば百芸に通ずる」という言葉を思い出した。まさにその通りだった。 庄司さんの母親は画家である。そのために、彼女は幼いころからヴァイオリンとともに絵にも親しんだ。ヴァイオリンの才能が優れていたために留学時代を通じて、音楽一辺倒の生活が続き、絵に目が向くのはドイツ・ケルン大学を卒業してからだという。 パリに住んだ庄司さんは、演奏会の合間に美術館に通い、絵画にも取り組む。それが今回展示された9点だ。いずれもが庄司さんの頭の中で鳴り続ける音を絵画に表現した抽象画である。でも、何となく、ほのぼのとし、心が落ち着くのだ。 絵に向かう庄司さんの言葉がいい。「ある晩ひとつのフレーズが頭の中で鳴り続ける中、再びキャンバスに向かった。するとその時初めて、描くことによってその音楽と自分の無意識的つながりが見えるのを知って驚いた」 ヴァイオリンをやっていなければ、彼女は絵の世界に入っていたかもしれない。私は絵のことも音楽のことも門外漢だが、個展会場にやってきた人たちの絵に見入る表情を見れば、そう想像できた。絵を見ながら庄司さんの演奏をヘッドフォンで聴く。不思議な時間を送った。