小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

124 週間読書日記 周恩来秘録の衝撃

このところの読書の傾向は、相変わらず一定しない。他人は「この人の年齢や考え方がよく分からない」というかもしれない。最近読んだ本をここに記してみる。
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「白い犬とワルツを」(新潮文庫)は米国の作家、テリー・ケイの小説だ。老妻に先立たれ、自らも病に侵された老人の物語だ。妻の死後、いつの間にか姿を見せた白い犬との交流の日々を描いた、いわば「大人向けの童話」といえる作品だ。これを読んだ娘は「悲しい結末だから、読まない方がいいよ」と私に言った。たしかに、結末は悲しい。が、老人の人生に爽快ささえ感じた。白い犬の存在は老人の残りの時間でどれだけ救いになったことか。動物の無私の愛を感じ取る作品だ。
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まひるの月をおいかけて」(文春文庫)。恩田陸は「夜のピクニック」で一躍文壇に新風を吹き込んだ作家だ。東京駅の構内に書店があり、旅行に出るときには必ずここで時間を過ごす。面白そうな文庫本を買い込むのだ。題名からして、興味をひく。舞台は古都・奈良。旅をする者には格好の作品だ。一冊を読み終えるのにそう時間はかからなかった。
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陪審法廷」(講談社)。「Cの福音」がベストセラーになった楡周平が、2年後に日本でも始まる「裁判員制度」を想定して、米国の陪審制度を主題にして描いたのがこの小説だ。養父に性的虐待を受けた同級生の少女を救うために、彼女の養父を銃殺してしまう日本人の少年が裁判に問われ、陪審員がどのような評決を出すのか。これも一気に読んだ。裁判に市民の感覚を取り入れるためにスタートするという裁判員制度を考える上で、参考になる作品だ。
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周恩来秘録」(上下、文藝春秋)。作者の高文謙は現在、米国に住む。かつて中国共産党中央文献研究室に勤務した周恩来研究の第一人者である。中国の独裁者、毛沢東と同志であり、近代中国を築いた功労者の周恩来。私はこれまで両者の関係は二人三脚と思っていた。中国解放闘争時代、周恩来毛沢東よりも上官だった。それがいつしか毛沢東の権力欲、すさまじい上昇志向によって関係は逆転する。毛沢東は保身のためにさまざまな運動を展開する。それに反対する人物は自分の後継者としたはずの劉少奇らを含め容赦なく「打倒」する。中国の混迷は毛沢東の猜疑心の深さと強い独裁意識に起因したのではないかと著者は指摘する。 そんな毛沢東に対し、周恩来は死ぬまで忍従する。周恩来ががんにかかり、衰えていくにもかかわらず、毛沢東は医師団に手術の許可を与えない。それでも周恩来は最期まで毛沢東を裏切らない。悲しいまでの忍従の姿勢なのだ。以前「毛沢東秘録」(産経新聞)を読んだ。さらに「周恩来秘録」に目を通すと、中国近代史の「巨人」である2人の関係が微妙なものであることを理解できる。周恩来の惨めさがクローズアップされた作品だが、人間としてみると私には毛沢東よりも周恩来の方に魅力を感じる。