小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1961 言葉の軽重 2020年の終わりに

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 フランスの詩人、ステファンヌ・マラルメ(1842~98)は「詩は言葉で書く」と、教えたそうです。当たり前のことですが、言葉を発することはなかなか難しいものですね。2020年、今年ほど言葉が重く、あるいは逆に軽く感じたことはありません。新型コロナの感染拡大を防ごうと呼び掛ける世界の為政者たちの言葉の響きには、大きな差があったと思うのです。

  以下は言葉に関する内外の詩人たちの考察と私のつぶやきです。(参考資料・高橋郁男『詩のオデュッセイア』コールサック社)、『日本詩人全集』新潮社など)

  ▼エミリー・ディキンソン(米・1830~86)

 ことばは死んだ

 口にされた時、

 という人がいる。

 わたしはいう

 ことばは生き始める

 まさにその日に。

  (「現代詩手帳2017・8月号・平井正穂訳」思潮社

 ▼ホーフマンスタール(オーストリア・1874~1929)

 言葉はこの世の最も美しいものの一つである。――言葉は、眼には見えないが、絶えずわれわれの側にただよってわれわれが弾くのを待っている、不可思議な楽器のようなものだ。

  (富士川英郎訳『フーゴ・フォン・ホーフマンスタール選集』河出書房新社

  ▼パウル・ツェラン(旧ルーマニア=現在のウクライナ生まれのドイツ系ユダヤ人・1920~70)

 ――もろもろの喪失のただなかで、ただ『言葉』だけが、手に届くもの、身近なもの、失われていないものとして残りました。(以下略)

  (飯吉光夫訳『パウル・ツェラン詩集』小沢書店)

  ▼田村隆一(1923~98)

 言葉なんか覚えるんじゃなかった

 言葉のない世界

 意味が意味にならない世界に生きたら

 どんなによかったか

 あなたが美しい言葉に復讐されても

 そいつは、ぼくとは無関係だ

 きみが静かな意味に血を流したところで

 そいつも無関係だ

  言葉のない世界を発見するのだ 言葉をつかって

 ――

 ウィスキーを水でわるように

 言葉を意味でわるわけにはいかない

  (『現代詩読本 田村隆一』「言葉のない世界」思潮社

  ▼高村光太郎(1883~1956)

 感ずる言葉が無ければ言葉は符牒に過ぎない。

 路傍の瓦礫の中から黄金をひろひ出すといふよりも、

 むしろ瓦礫そのものが黄金の仮装であったことを見破る者は詩人である。

  (『日本詩人全集 高村光太郎』・「生きた言葉」より・新潮社)

  ▼吉野弘(1926~2014)

 韓国語で

 馬のことをマル(말)という。

 言葉のことをマール(말)という。

 言葉は、駆ける馬だった。

 熱い思いを伝えるための――。

  (『吉野弘詩集』「韓国語で」より・ハルキ文庫)

  ▼以下、私のつぶやき

 語彙が豊富でも、美辞麗句を並べても、言葉は伝わらない

 一語一語かみしめるように、就職試験の面接の時のように

 緊張しながらも真っ直ぐこちらを向いて、君は話す 

 たどたどしい言葉に聞こえても

 ひたむきさ、誠実さが伝わればいい

 

  大言壮語、針小棒大、舌先三寸、嘘八百……

 詐欺師のような政治家にだまされるな

 「巧言令色鮮し仁」なのだ

  コロナ禍に揺れた2020年も残すところ1日。皆様、よい年をお迎えください。

 

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